サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

‘人権侵害’カテゴリーの記事一覧

プレスリリース:三井住友FG株主総会で森林保護方針強化を求めてアピール(2018/6/28)

「森林と人権を守るリーダーになってください」
〜森林破壊企業への資金提供停止を求める署名 約2万筆提出〜

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都新宿区、以下RAN)は、本日28日、三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)の第16期定時株主総会に参加し(注1)、同社の銀行業務における森林セクターの方針強化を求めるよう、会場前で株主にアピールしました。また本日の株主総会前に、SMFGへ署名19,581筆を電子メールで提出し、森林破壊と人権侵害を起こす企業への融資を即時停止するよう求めました。

RANのスタッフやボランティア8人は、株主総会会場の東京・丸の内の三井住友銀行本店ビルの前で「三井住友フィナンシャルグループ:森林と人権を守るリーダーになってください」と書かれたバナーを掲げ、環境・社会・ガバナンス(ESG)に関する投融資方針を強化すべきであるとアピールしました。また、森林破壊に脅かされるインドネシアのNGOとして現地の声を届けるために、TuK (トゥック)インドネシア副代表のエディ・ストリスノもアピール活動に参加しました。

RAN 責任ある金融シニアキャンペーナー ハナ・ハイネケンは「三井住友フィナンシャルグループは、先週、事業別融資方針の制定を発表し、環境・社会的責任を果たすための取り組みを進めてきました。しかし、SMFGは気候変動リスクのある石炭やタールサンドなどの化石燃料、熱帯林破壊や人権侵害を起こすパーム油や紙パルプなどの部門への主要な資金提供者となっています。このような事業への資金提供は同グループをESGリスクにさらすとともに、業界のリーダーとなれるはずの立場を危うくしています。パリ協定やSDGの森林減少阻止目標を達成するため、SMFGはESGに関する投融資方針を飛躍的に強化すべきです」と訴えました。

会場前では株主たちに『三井住友フィナンシャルグループの環境・社会・ガバナンス(ESG)の実績に関する独立評価レポート:森林と人権保護の金メダルを目指して』(注2)を配布し、情報提供も行いました。SMFGが、極度に環境へ悪影響を与える化石燃料に16.5億米ドル、東南アジアの熱帯林をリスクにさらす産品へ約4億米ドルの融資・引受を2016年に提供していたことや、インドネシアで児童労働を含む人権侵害、違法行為、森林破壊に関与する企業とつながっている事例を紹介しました。そして、SMFGは金融ポートフォリオで企業価値に悪影響を及ぼすESGリスクを評価及び開示すべきであると提言しました。

また、株主総会前の本日早朝、オンライン署名「Big Banks Financing Forest Destroyers(大手銀行、森林破壊者に資金提供)」(注3、英語)19,581筆を、SMFGに電子メールで提出しました。本署名はRAN本部のウェブサイトで6月26日と27日の2日間に集中して実施したもので、SMFGに、森林破壊と人権侵害を起こし、現地コミュニティを脅かす企業への資金調達を即時停止するよう求めています。

*SMFGは事業別融資方針を6月18日に制定し、石炭火力発電所、アブラヤシ農園開発および森林伐採を「環境や社会へ大きな影響を与える可能性が高い」事業として特定しました(注4)。

 

注1) RANは、森林セクターでの金融機関の責任と方針強化を求め、株主総会への参加のために、三井住友FG、三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほフィナンシャル・グループの株式を最小単位で(100株)購入しています。

注2)三井住友FGは、持続可能性への取り組みをうたう2020年東京オリンピック・パラリンピックのゴールドパートナー(スポンサー企業)です。※当日の配布資料をご希望の場合はご連絡ください。

注3)署名URL:https://www.ran.org/financing_destroyers

注4)三井住友FG「トップコミットメント」
三井住友FG「人権尊重に係る声明」
三井住友銀行「事業別融資方針の制定およびクレジットポリシーの改定について」

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)

プレスリリース:紙パルプ調達方針実施に積極的な企業ランキング発表『紙の約束を超えて』(2018/6/14)

〜オフィス用品・出版社・ファッション企業13社を評価 アスクルは最下位グループに~

サンフランシスコ発ーー環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都新宿区、以下RAN)は、本日14日(現地13日)、オフィス用品企業、出版社、ファッション企業13社を対象に、紙パルプ調達方針の実施状況を評価した新報告書『紙の約束を超えて』(”Beyond Paper Promises” 、注1、2)を発表しました。調査の結果、13社全てが調達方針を定めているにも関わらず、ほとんどの企業で具体的な取り組みが進んでいない現状が明らかになりました。日本企業ではアスクルとリコーが対象で、アスクルは各項目で評価は低く、高リスクなサプライヤーから紙の調達も続けており、最下位グループ「要緊急改善」となりました。

紙パルプ調達方針実施に積極的な企業ランキング

  • 「トップリーダー」(1社):スカラスティック
  • 「リーダー」(3社):エル・ブランズ、マクミラン、アシェット
  • 「要改善」(6社):ディズニー、ハーパーコリンズ、ラルフローレン、ステープルズ、リコー、アバクロンビー&フィッチ
  • 「要緊急改善」(3社):アスクル、オフィスデポ、ペンギン・ランダムハウス (注2)

本調査は、2018年2月から3月にかけて、調査票を送付し、返送を依頼する形で実施しました。採点方法は100点満点とし、特別加点として「アドボカシー」を加えた、以下の6項目で評価しました。
※各社の実際の点数は公表していません。

A)調達方針(20点)
B)実施計画(15点)
C)効果的な実施体制(20点)
D)サプライチェーンの追跡可能性、評価、行動(30点)
E)検証、モニタリング および報告(15点)
F)アドボカシー(責任ある調達の推進活動、特別加点10点)

各グループの特徴は以下の通りです。

  • トップリーダー、リーダー:自社の調達方針が、現地で実際に変化をもたらすよう、以下の積極的な措置を講じている。
    • 天然林由来の原料の使用を中止している
    • 報告システムや苦情処理手続きを開発している(有効性は未確認)
    • 持続可能性に関わる人員と体制への投資を増やしている、など
  •  要改善:取り組みの改善は必要だが、明らかに前進を示している。
  • 要緊急改善:調達方針で約束していることを現地での改善につなげていく努力が遅く、緊急に措置を講じる必要がある。

RAN森林シニアキャンペーナー ブリアナラ・モーガンは「企業が調達方針での約束を守らない結果として、森林や森林から生活の糧を得ている人々が被害を直接受けています。先住民族や地域住民は、既存の産業植林事業や植林地拡大のために土地や森林を失い続け、 基本的人権が尊重されていません。手付かずだった森林は伐採され、炭素を多く含む泥炭地が燃やされ、環境面での被害も深刻です」と批判しました。

また、RAN日本代表の川上豊幸は「アスクルは、高リスクのサプライヤーであるAPP社(Asian Pulp & Paper)から今も大量の用紙を調達しています。国際的な森林認証制度である『PEFC認証』を得ていたとしても、問題は山積みしているのが現状で、これらの問題を知りながら長年にわたって購入を継続しているアスクルの責任は重いものです。APP社が現地コミュニティの人権を尊重して社会的紛争を解決し、救済措置を講じるよう、購入停止も含めた影響力の行使がアスクルには求められています」と訴えました。

インドネシアの森林は、世界でも重要な生物多様性を誇り、気候変動の緩和においても重要です。同国における高い森林減少率、森林セクターでの大きな温室効果ガス排出、及び人権侵害は、主に産業植林などの大規模なプランテーション開発で引き起こされています。RANは対象企業に、期限付きの測定可能な改善目標を定め、進捗状況を監視して適切な処置を講じ、企業間でベストプラクティスを共有することなどを提言しています。

注1)『紙の約束を超えて』(”Beyond Paper Promises” レポート全文、英語)

注2)『「紙の約束を超えて」ブリーフィングペーパー』(日本語)

注3)業種別対象企業:オフィス用品企業(アスクル、リコー、ステープルズ、オフィスデポ)、出版社(スカラスティック、エル・ブランズ、マクミラン、アシェット、ディズニー、ハーパーコリンズ、ペンギン・ランダムハウス)、ファッション企業(ラルフローレン、アバクロンビー&フィッチ)

参考資料:RANブログ『APP 社は約束を果たすべき時だ』(2017年5月13日)

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)

ブログ:3大メガバンクが直面するパーム油セクターのESGリスク: インドフード社の事例(2018/6/6)

責任ある金融 シニア・キャンペーナー ハナ・ハイネケン

(本ブログは、RIEF環境研究機構に2018年6月6日に寄稿したものです)

インドフード・スクセス・マクムル社(インドフード:IDX: INDF)は、インドネシア最大の食品会社です。インドネシアの大財閥であるサリム・グループの一社で、同財閥の最高経営責任者のアンソニー・サリム氏はインドフードの最高経営責任者でもあり、インドネシア第4位の富豪です。日系企業ではアサヒグループホールディングス、王子製紙ともそれぞれジョイントベンチャーを設立しています。

2016年以降、インドフードはパーム油事業に関連する深刻な人権侵害について、買い手企業、金融機関や投資家、NGOなどから厳しい監視を受けています。最近では人権侵害以外にも、サリム氏が間接的にコントロールする企業が過去5年で、インドネシアの約1万ヘクタールの泥炭地を違法に皆伐したことが明らかになりました。炭素集約度の高い泥炭地では、1ヘクタール当たり、多いもので100トンの二酸化炭素を排出するという分析もあります。1万ヘクタールでは毎年100万トンを排出する計算になり、これは230万バレルの石油を燃やすのとほぼ同じ排出量になります。

このような問題があるにもかかわらず、同社は前述のように様々な日本企業とビジネス関係を持ち、みずほフィナンシャルグループ(みずほ)、三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)を含む、社会的責任や環境への責任を掲げる多くの銀行や投資家から多額の投融資を受けています。またシティグループ、ブラックロックなどの大手金融機関や投資家も多額の投融資をしています。

投融資の決定において「環境、社会、ガバナンス」(ESG)の重要性を認識する銀行や投資家が増えている中で、インドフードの事例はESGへの配慮がまだまだ不十分であることを示しています。

 

森林リスク産品セクターにおけるESGリスクと金融セクターのエクスポージャー

東南アジアは現存する世界最大の熱帯林地域の一つです。しかし急速な森林減少が続いており、その大部分はパーム油、紙・パルプ、木材、天然ゴム(以下、「森林リスク産品」と総称)などの少数の産品によって引き起こされています。これらの森林リスク産品セクターは気候変動、生物多様性の損失、土地収奪、労働者の酷使、贈収賄、違法行為など重大なESGの問題に直面しています。こういったリスクは、業務停止、買い手企業からの契約解除、訴訟などの重大なリスクを引き起こすことで、金融セクターに直接的な影響をもたらし、最終的には顧客企業の債務不履行や投資収益率の悪化だけでなく、金融機関自身の評判低下など、様々なリスクの結果として、投資家や銀行に財政的な損失を与えます(詳細はRANのレポート「投資家には責任がある」をご参照ください)。

これらのリスクにもかかわらず、RANの「森林と金融」の調査によると、大手銀行や投資家、特にアジアの銀行・投資家は、インドフードのようなESGリスクが大きな企業を含めて、このセクターに多額の投融資を行っていることが明らかになっています(下記参照)。

企業融資および引受(国別・セクター別)2010-2016年。単位は10億米ドル
出典: forestsandfinance.org

インドフードおよび関連企業のESGリスク インドフードのサプライチェーン上流におけるパーム油事業のESGリスクは、どの銀行や投資家にとっても憂慮すべきことです。重要なリスクには以下が含まれます。

  • 労働者の酷使:児童労働の使用、危険な労働条件、最低賃金以下の賃金など、インドネシアの20の労働法への組織的な違反についての証拠があります。このような労働者の酷使状況は2016年6月に初めて明らかにされ、2017年11月にRANとパートナー団体によって行われた調査を含めて繰り返し確認されており(詳細はこちら)、また、今年3月を含めて2度、独立監査によって確認されています。
  • RSPO認証基準の違反:インドフードのパーム油生産子会社は、労働搾取の嫌疑について「持続可能なパーム油に関する円卓会議」(RSPO)から苦情申立によって調査されており、認証停止を勧告されるリスクがあります。RSPOがパーム油生産のIOIグループに対して認証一時停止を勧告したときは、27社のバイヤーが取引を停止し、株価が20%下落しました。インドフードの有力な合弁パートナーであるペプシコ社は最近、インドフードのパーム油生産子会社からのパーム油の直接購入を中止しました。他のバイヤー(ケロッグ 、ゼネラルミルズ 、マーズ 、ハーシー 、ロレアル など)もエクスポージャーの軽減に動いています。今年6月にはRSPOの監査が予定されており、100の機関投資家(その資産は合計3.2兆米ドル)がその結果を注視していることを公表しています。
  • 問題のある土地利用:インドフードの子会社であるインドフード・アグリ・リソーシズ(インドアグリ)の農園用地の42%、つまり23万ヘクタールの土地は、地域コミュニティとの紛争、労働争議、開発を制限する環境規制、事業管理地の地図の未公開などのためにその正当性が疑われています。森林リスク産品のESGリスク分析を専門とする研究イニシアチブであるチェーン・リアクション・リサーチによると、これはインドフードおよびインドアグリと、インドフードの親会社であるファーストパシフィックに大幅な株価下落のリスクをもたらしています。
  • 供給源の非公開:インドアグリの製油所で生産される未精製のパーム油の36%は原料の供給源が公開されていないことが判明しており、このことは買い手企業および投資家や銀行にサプライチェーン及びレピュテーションリスクをもたらすと分析されています。

インドフードとサリム・グループ傘下企業は、コーポレート・ガバナンスの欠陥 についても批判されており、これは森林減少リスクを助長する「リスク乗数」とみなされています。 ワシントンDCを拠点とするコンサルティング会社のクライメート・アドバイザーとインドネシアの政策研究団体アウリガは、「企業はインサイダー情報や複雑な企業構造を利用して業績不振や違反行為を隠蔽することができます。リスクが隠されることで投資家や融資機関が十分な情報に基づく投融資決定を行うのが困難になり、アカウンタビリティが低下します」と説明しています。彼らの調査によると、インドフードの子会社で、上場しているパーム油製造企業の2社、サリム・イボマス・プラタマとロンドン・スマトラは「インドネシアの1999年の独占禁止法違反の嫌疑がかけられている」ことが指摘されています。

インドフードの最高経営責任者のアンソニー・サリム氏はまた、インドネシアの熱帯林と泥炭地の皆伐を続けている民間プランテーション事業への関与をめぐって、人々の関心を広く集めています。今年4月、サリム氏がアブラヤシ農園企業のドゥタ・レンドラ・ムルヤ(PT Duta Rendra Mulya:DRM社)とサウィット・カトゥリスティワ・レスタリ社(PT Sawit Khatulistiwa Lestari: SKL社)を財務面で間接的にコントロールしていたり、共同出資者を通じてつながっていることが明らかにされました。これらの企業は2013年から2017年までの期間、ボルネオ島のケタンガウ(Ketungau)で約1万ヘクタールの炭素集約度の高い泥炭地を不法に皆伐したことが明らかにされています。その多くはインドネシア政府によって保護対象として区分されている区域でした。これらのプランテーション資産は、買い手企業の「森林破壊なし、泥炭地なし、搾取なし」( No Deforestation, No Peatland and No Exploitation:NDPE)の方針、およびインドネシア政府の泥炭地および森林保護の法律・規則のために座礁資産化するリスクがあります(詳細についてはこちらをご参照ください)。

SKL社によって皆伐された土地のドローンによる検証(2017年11月4日)
出典:Aidenvironment, Palm oil sustainability assessment of Salim-related companies in Borneo peat forests, April 2018

金融セクターのエクスポージャーと対応(または不対応)

サリムグループ企業が直面する様々なESGリスクへの金融セクターの対応は弱々しく、期待外れです。これは彼らの持続可能性と人権へのコミットメント、さらには合法性へのコミットメントに対してさえ、重大な懸念をもたらすものです。

サリム・グループの主な融資元、引受機関、投資者。
出典: forestsandfinance.org, Indofood Financial Statements & Bloomberg

 

上の図が示すように、有名な銀行や投資家がサリム・グループの傘下企業に数十億ドルを投融資しています。貸し手のトップ3は、インドネシアの大手銀行のバンク・セントラル・アジア、みずほ、SMFGです。また、三菱UFJはインドフードに直接融資しており、GPIFはインドフード、ファーストパシフィック及び関連会社のインドフードCBPに投資しています。サリム・グループの複雑な企業構造や所有構造のため、金融機関は融資した資金が実際にどのように使われているか知るのが難しくなっています。

投資引き上げを実施した最初の投資家の一つは、世界最大の政府系ファンドであるノルウェー政府年金基金グローバルです。同基金はインドアグリファーストパシフィックが「持続可能でない方法でパーム油を生産している」ことを理由に、これらの企業への投資を引き上げました。銀行では、ドイツ銀行がインドフードとその子会社に対して、労働者の酷使状況が暴露された後に融資を中止したことが最初だと考えられます。今年4月にシティグループはインドアグリへの融資を中止しましたが、一方でインドフードのパーム油関連でない別の事業への融資を継続しています。注目すべき点として、ドイツ銀行シティの両行は強制労働と児童労働を明確に禁止しています。

他の金融機関も、インドフードの顕著なESGリスクを考えれば、特に自らが明確に掲げる基準をインドフードが満たしていない場合には、相応の対応をすべきです。最近ではSMFGが人権方針を発表し、みずほは人権に関するデューデリジェンス方針を強化しました。また、5月15 日に三菱UFJが発表した新融資・引受方針では、「児童労働・強制労働を行っている事業」に対して「環境・社会に対するリスクまたは負の影響を認識した場合はファイナンスを実行しません」と明記しています。

これらの動きは称賛に値しますが、3メガバンクのインドフードに対する対応は、その方針を実施するための試金石となるでしょう。また、ブラックロックはすべての投資先企業に対して「社会へのポジティブな貢献」と「すべてのステークホルダーの利益」を求めています。そのためにはインドフードに対する連携した働きかけと、場合によっては投資引き上げが必要となります。

 

必要とされる対策

インドフードとその他のサリム・グループ企業に金融サービスを提供する機関は、同社及び同グループのパーム油事業に起因する環境および人権への有害な影響に対して、責任の一端を負っています。これは多国籍企業に関するOECDガイドラインおよびビジネスと人権に関する国連指導原則に沿った判断です。銀行や投資家はアンソニー・サリム氏に対して、サリム・グループと同氏の”隠れた関連企業”に適用される「森林破壊なし、泥炭地なし、搾取なし」方針の採用を要求し、信頼できる苦情申立メカニズムの確立、確認された労働法違反や継続中の土地紛争を解決するための独立した検証を伴う是正処置、を強く求める最後通告を即座に発行する必要があります。継続的なリスクに対処するためには、金融機関はすべての新規プランテーション開発の即時中止、高炭素貯留(HCS)アプローチの要求事項の遵守、劣化した泥炭地の回復への投資を確約する期限付きの実施計画の公表を要求する必要があります。

残されている熱帯林と泥炭地を保護および回復し、パーム油事業に関連する人権を尊重することは、持続可能な開発目標(SDGs)とパリ協定の目標実現のために決定的に重要です。金融セクターは問題解決の一翼を担うことを、十分かつ公的に約束するべき時です。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

プレスリリース:新報告書「サリム・レポート」発表 日本のメガバンク3行、近年最大級の熱帯林違法皆伐とのつながりが判明(2018/4/13)

〜インドネシア財閥サリム・グループの関連企業、パーム油生産のための熱帯林皆伐が明らかに〜

サンフランシスコ発ーー環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都新宿区、以下RAN)は、11日、「サリム・レポート:ボルネオ島泥炭林でのサリム財閥関連企業のパーム油に関する持続可能性評価報告書」(”Palm oil sustainability assessment of Salim-related companies in Borneo peat forests” 、注1)を発表し、インドネシアの最大財閥であるサリム・グループの関連企業が、ボルネオ島の熱帯林で続いている違法皆伐において、近年では最大級の事例に関係していたことを明らかにしました。インドネシア政府は泥炭地開発と森林減少を規制し、同グループもその遵守を約束していましたが、約1万ヘクタールの泥炭林がアブラヤシ農園のために違法に開発されていました。本報告書では、同グループ企業に日本のメガバンク3行が多額の資金提供をしていることにも言及し、サリム・グループに働きかけるなど、迅速に対応することを銀行に求めています。

同報告書は、この泥炭地破壊に責任のある2つのアブラヤシ農園企業が、インドネシアの大物実業家であるアンソニー・サリム氏がコントロールしている会社または関係会社であることを明らかにしています。サリム氏はインドネシア最大財閥のサリム・グループを率い、その幅広い企業ネットワークにはインドフード・スクセス・マクムル社(インドフード)と、その親会社のファーストパシフィック社があります。インドフードは世界最大のパーム油生産会社の一つで、インドネシア最大の食品会社であり、食品大手のペプシコとネスレの合弁事業パートナーでもあります。インドフードとファーストパシフィック社は両社とも、みずほフィナンシャルグループ(みずほ)と、三井住友フィナンシャルグループ(SMFG)から多額の融資を受け、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)からの投資も受けています。インドフードは三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)からも融資を受けています。

進行する森林減少についてサリム・グループが初めて知らされたのは2016年2月でした。しかし、インドネシア政府から繰り返し泥炭地開発の停止を指示されていたにもかかわらず、介入をしませんでした。それどころか、同グループの子会社は、本報告書内で指摘しているように、当初、インドネシア政府の泥炭復興庁(BRG)が、ほとんどの開発対象地を「優先的に保護すべき泥炭地」と指定していたにもかかわらず、インドネシア政府の泥炭地開発の凍結対象地域を示す地図の区分を開発可能となるよう変更してもらうなどしていました。邦銀とインドネシアの銀行は、このような破壊活動を禁止する方針がないため、最もリスクにさらされている主要な貸し手として目立っています。日本のメガバンク3行はサリム・グループに最大で10億米ドル以上の融資を行っており、中でもみずほは最大の貸し手です。

RAN責任ある金融シニア・キャンペーナーのハナ・ハイネケンは「この報告書は、熱帯林が紛争パーム油のために破壊され続けているにもかかわらず、ビジネスのトップレベルでの怪しい取引や問題対処への怠慢について明確な証拠を示しています。一方、サリム・グループの顧客企業や資金提供者は、何も問題がないかのように同グループと取引を続けており、違法な森林破壊に加担しているのです。みずほ、MUFG、SMFGは、サリム・グループがインドネシアの法律や、森林破壊を伴わない持続可能な開発の規範を遵守するよう促すか、または同グループとの取引関係を解消する責任があります」と訴えました。

RANは昨年11月、インドネシアの労働権擁護団体OPPUK、国際労働権フォーラム(ILRF)とともに、インドフードのアブラヤシ農園で労働搾取が続いていることを発表したばかりです(注2)。調査で確認された労働者酷使の事例では、児童労働や強制労働の状況が起きている可能性が高いだけでなく、労働者が日常的に危険性の高い農薬の暴露を受け、給料は最低賃金以下で、違法に臨時雇用者に中心的な役割を果たす仕事をさせ、独立した労働組合の結成を阻止することが含まれます。このような違法な労働行為が起きていたことは最近、独立監査(注3)によって裏付けられました。

ハイネケンは、「サリム氏が継続的な違法労働搾取、そして今は違法な森林破壊に関係していたにもかかわらず、数十億米ドルもの企業融資、債券や株式からの資金が全てサリム・グループの企業に流れています。本報告書は、メガバンクを含む主要銀行が炭素集約度の高い泥炭地破壊促進の役割に加担していたという失敗を明らかにしています。その中には、サリム・グループの環境、社会およびガバナンスのリスクについて繰り返し警告を受けてきた銀行も含まれています。銀行は気候変動に対応する誓約を強化し、泥炭地破壊への資金提供を止める必要があります」と強調しました。

メガバンクと比較して、パーム油に関する融資方針をもつシティグループの対応は素早く、サリム・グループの子会社であるアブラヤシ農園企業のインドフード・アグリ・リソーシズ社とその子会社への全融資をキャンセルし、関係を解消するとともに、本報告書で問題視されているパーム油企業へのエクスポージャーの有無を確認していることを先日通知してきました。

泥炭地は、火災のリスク(農園開発のために排水された後、乾燥して火がつきやすくなる)と気候調節の重要性から、インドネシアの法規制では特別に保護されています。一度火がつくと消化はほぼ不可能です。また、泥炭地は重要な炭素吸収源であり、炭素を地中に蓄えています。アブラヤシ農園開発のために排水された泥炭地では、1ヘクタール当たりで平均55トンの二酸化炭素が毎年排出され(注4)、6,000ガロン以上のガソリンを燃やすのとほぼ同じ量です。よって、今回開発された1万ヘクタールの泥炭地で排出される二酸化炭素の量は、毎年55万トンになります。ちなみに平均的な乗用車は毎年約5トンの二酸化炭素を排出しています(注5)。

また、本報告書ではサリム氏の企業統治に対して深刻な懸念を提起しています。サリム・グループのビジネス帝国は、グループが管理する上場企業と、隠れた関連企業(インドネシアでは「ビジネス・オン・ザ・サイド」と呼ばれる非上場企業)とに分けられます。上場企業は透明性と持続可能性への誓約をしていますが守ることはできず、隠れた関連企業は熱帯林と保護すべき泥炭地を破壊しています。サリム・グループは「インドフード帝国」という表向きの顔とは懸け離れ、破壊的な事業を続けています。パーム油購入企業は、熱帯林を保護して人権を尊重する責任ある生産者からのみ購入する責任があります。同時に、サリム・グループ企業に資金提供している銀行は気候変動に対応するための方針の採択を含め、デューデリジェンスを強化する責任が問われます。

注1)「サリム・レポート」(報告書全文、英語)

本報告書は、持続可能な生産と取引を調査するコンサルタント「AidEnvironment」がまとめた調査に基づき、レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)、レインフォレスト・ファンデーション・ノルウェー(RFN)、サムオブアス(SumOfUs)が作成しました。

注2)RANプレスリリース「労働搾取、貧困水準の賃金、有毒な健康被害を起こし続けるインドネシアのアブラヤシ農園への邦銀からの融資について、最新レポート発表」、2017年11月28日

注3)“ASI Final Assessment Report”

注4)World Resources Institute, “Destruction of Tropical Peatland Is an Overlooked Source of Emissions”, April 21, 2016

注5)U.S. Environmental Protection Agency (EPA), “Greenhouse Gas Emissions from a Typical Passenger Vehicle”, March 2018

 

 

「サリム・レポート」詳細

報告書全文はこちらから

本報告書は、インドネシアのボルネオ島シンタン地区で操業している2つのアブラヤシ農園企業の森林破壊行為を調査しています。

2つの農園企業とは、アンソニー・サリム氏が株式の過半数を保有しているドゥタ・レンドラ・ムルヤ社(PT Duta Rendra Mulya : DRM社)と、共同出資者を通じてサリム氏と関連のあるサウィット・カトゥリスティワ・レスタリ社(PT Sawit Khatulistiwa Lestari: SKL社)です。

ボルネオ島シンタン地区の最も重要な泥炭地の1万ヘクタールは「ケタンガウ(Ketungau)泥炭湿地」と呼ばれ、アブラヤシ農園開発のためにラグビー場約1万個分の泥炭湿地が開発されました。

フォーブス誌によると、アンソニー・サリム氏はインドネシア4番目の富豪で、氏の共同経営者は過去に厳しい調査を求められてきました。サリム氏は様々な上場企業(ファースト・パシフィック、インドフード・スクセス・マクムル、インドフード・アグリ・リソーシズ[インドアグリ]、サリム・イボマス・プラタマ、ロンドン・スマトラ)を所有していることで知られていますが、同時に、政府の規制や、開発を禁止している自社方針に反して熱帯林と泥炭地の破壊を続けている多くの非上場グループ企業を(何層にも株主が重なっている場合が多いが)コントロールしていることでも知られています。

サリム・グループのパーム油事業への重要な資金源は銀行融資です。2017年9月30日時点でインドフードとその子会社の帳簿上に20億米ドル以上の融資記録があり、ファースト・パシフィック社には6億8千万米ドルの融資残高があリます。こうした様々な融資は直接SKL社やDRM社が受けている訳ではありません。しかし、サリム・グループの企業構造や所有構造により企業間でのお金の流れが容易になっており、貸し手はDRM社やSKL社に未だつながっていることが示されています。2017年9月30日時点で、みずほは、ファースト・パシフィック社、インドフード、その子会社に約5億米ドル、SMFGは約4億米ドルの融資をしており、三菱UFJは3億米ドル以上の融資をインドフードとその子会社に約束しています。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

オルタナにRAN川上豊幸が寄稿しました(2018/3/28)

オルタナ「東京五輪、紙調達基準案が抱えるリスク」(2018年3月28日付)〜RAN川上豊幸が寄稿しました〜

「東京オリンピック・パラリンピック組織委員会(東京2020組織委員会)の紙とパーム油に関する調達基準案が作成され、3月30日まで、一般からの意見募集を行っています。記事を読む

プレスリリース:「熱帯林破壊ゼロの東京五輪」を求めて11万筆の署名をIOCと東京オリンピックに提出(2018/3/28)

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都新宿区、以下RAN)は、本日28日、国際オリンピック委員会(IOC)と東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(東京2020組織委員会)に、「熱帯林破壊ゼロの東京五輪」を求める署名11,0572筆を提出しました。署名は平昌冬季五輪が世界の注目を集める期間中に米国で実施され、東京大会の施設建設における熱帯材の使用と人権侵害への懸念の声が高まりました。東京2020組織委員会は、持続可能性に配慮した調達基準設定の最終段階に入っています。

本署名は、RANと米国の署名サイト「CREDO Action」(英語、注1)が実施したもので、東京2020組織委員会が新国立競技場など主要施設の建設用木材に環境・社会面でリスクの高いインドネシア及びマレーシア由来の熱帯材を大量に使用している状況を2月5日に公開(注2)したことを受けて緊急に行いました。

署名は、IOCと東京2020組織委員会に、東京大会での熱帯材の使用中止、先住民族と地元住民の権利を尊重すること、森林破壊と人権侵害をもたらす高リスクの木材についての調達基準を強固なものにすることを求めていますま。「CREDO Action」では2月27日から3月26日までの1カ月間に81,831筆が集まり、RAN本部のウェブサイトサイト(注3)では昨年9月21日から3月26日までの期間に28,741筆が集まりました。東京大会の調達木材については、RANなどNGO44団体が2016年12月から継続的に情報公開請求していました。2月に公開された情報によると、2017年11月末時点で、新国立競技場建設のために使用されたコンクリート型枠合板の87%以上がマレーシアおよびインドネシアの熱帯林に由来していました。2017年と2018年に行われたNGOの調査によると、新国立競技場など複数の施設で、マレーシア・サラワク州での違法伐採、熱帯林破壊、人権侵害につながりのあるサプライヤーから調達した木材が確認されました。

RAN 責任ある金融シニアキャンペーナー ハナ・ハイネケンは「東京五輪の木材調達は、世界で最も豊かな生態系を誇り、かつ脅威にさらされている熱帯林由来となっており、持続可能な五輪を開催するというコミットメントに明確に違反しています。私たちは、IOCと東京オリンピック大会当局に対し、調達基準の改善、人権の尊重、かけがえのない熱帯林の破壊を止めるよう求めます」と訴えました。

3月16日、東京2020組織委員会は「持続可能性に配慮したパーム油・紙の調達基準(案)」を公開し、30日まで意見公募を行っています(注4)。RANは、両方の調達基準案が強固なデューデリジェンス(相当な注意による適正評価)や調達対象外についての明確な基準設定を義務付けるよりも、「PEFC森林認証プログラム」、「マレーシア・サステイナブル・パーム・オイル」(MSPO)、「インドネシア・サステイナブル・パーム・オイル」(ISPO)など、かなり弱い認証制度も活用できる提案になっていると考えています。さらに、東京大会の調達基準が実質的に強化されなければ、熱帯林破壊と人権侵害に関連したリスクが継続して残ると指摘しました。

インドネシアとマレーシアには多くの先住民族が住み、世界でも最高水準の生物多様性を誇っています。しかし同国は、森林伐採、パーム油、紙パルプ生産に関わる開発で、かつてない速さで進む森林破壊に直面しています。日本は依然として世界最大の熱帯材合板の消費国であり、インドネシアとマレーシアから2016年だけで約200万㎥の合板を輸入しています。RANなどNGOは昨年5月にも、マレーシア・サラワク州の先住民と一緒に、東京五輪施設建設での熱帯材使用を直ちに中止するよう求める14万筆の署名をスイスとドイツの日本大使館に提出しました(注5)

注1) CREDO ACTION, “Tell the International Olympic Committee: No rainforest destruction for Tokyo 2020 Olympics”

注2)RAN「緊急プレスリリース:東京五輪競技会場の建設に高リスクの熱帯材大量使用、国内外NGOから「遺憾」の声〜新たに公開された情報により、主要な五輪施設建設での無責任な木材調達の環境・社会的影響への深刻な懸念に裏付け〜」

注3)RAN, “No more rainforest destruction for Tokyo 2020 Olympics”

注4)東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(東京2020組織委員会)「持続可能性に配慮したパーム油・紙の調達基準(案)」に関する意見募集について

注5) RAN「プレスリリース:熱帯林破壊や人権侵害のない五輪を求め日本大使館に14万超の署名」

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

CREDO Actionは社会変化のネットワークで、革新的変化のために5百万人の活動家を組織化し結集しています。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)