サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

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プレスリリース:三菱UFJ、他大手銀行・消費財企業、インドネシア「紛争パーム油」生産に加担(2020/8/28)

地域住民から略奪された土地で生産

インドネシアーー環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、インドネシアNGO2団体、LBHバンダアチェとWalhi(ワルヒ)アチェと現地調査を行い、大手パーム油企業ゴールデン・アグリ・リソーシズ(GAR)が地域住民の土地権を侵害して生産された「紛争パーム油」を大手消費財企業に供給していることを明らかにしました(注1)。GARの供給先にはネスレ、マース、モンデリーズ、ペプシコ、ユニリーバなどが含まれます。また、GARは三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の顧客企業であり、MUFGはESG(環境、社会、ガバナンス )方針で違法事業への融資禁止などを約束していることから、自社方針違反についての対処が求められます。

土地を守るために村に残った、パンテ・チェルミンの人々

今回の調査によって判明したのは、GARと別の1社(Permata Hijauグループ)を通じ、問題となっているパーム油企業 PT. Dua Perkasa Lestari (DPL、注2)の紛争パーム油が供給されたという点です。DPL社はパンテ・チェルミン村(アチェ 州西南アチェ県)のコミュニティとの間に数十年にわたる未解決の紛争があり、以下の紛争が調査で明らかになりました。

 ●DPL社は、最初の事業地で適切な事業許可を取得していなかった
 ●コミュニティが慣習的に利用してきた土地の収奪が記録されていた
 ●DPL社はコミュニティから「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC)を得ず、住民たちの農作物に壊滅的な被害を与えた
 ●DPL社はコミュニティの人々を脅迫して立ち退かせるために、インドネシア総務省の方針に違反して、軍隊を組織的に使用した、など。

LBHバンダアチェ ディレクターのSyahrul氏は「DPL社の事業許可が2008年に発行されて以来、地域コミュニティは自分たちの土地から強制的に立ち退かされる脅威にさらされてきました。 住民のほとんどは経済的制約など様々な理由でそこで生活を続けることができませんでしたが、まだ多くの人が自分たちの土地のためにたたかうことを誓っています。 LBHは、この事件を西南アチェ県政府、アチェ州政府、アチェ州議会、インドネシア大統領府にも報告しましたが、紛争は解決されず、誰もコミュニティの土地権の申し立てを検証していません。新型コロナウイルス の感染が拡大する中、地域コミュニティの土地権を保護し、食料と生活を維持することはこれまで以上に喫緊の課題となっています」と訴えました。

MUFGは、2018年から2020年4月の間、DPL社から紛争パーム油を購入したGARとその子会社に対して合計3億ドルの融資を行っています(注3)。一方で融資などに関するESG方針を2018年に策定し、翌年にはパーム油部門への資金提供についての方針を追加しました。ESG方針の中で「違法または違法目的の事業」への融資の禁止、持続可能なパーム油事業の支援、そして「非自発的住民移転に繋がる土地収用を伴う事業」の場合は顧客企業の環境・社会配慮が十分であるか確認することを約束しています(注4)。

RAN 責任ある金融シニアキャンペーナー ハナ・ハイネケンは「三菱UFJフィナンシャル・グループは、GARのような、自社およびサプライチェーンで繰り返し人権侵害を起こしている企業には融資すべきではありません。 GARへの融資は三菱UFJのESG方針に違反しています」と指摘しました。

消費財企業や銀行は、サプライチェーンにおける供給業者や融資先企業に対し、パンテ・チェルミン村の住民への土地返還が合意されるまで、DPL社との取引停止を求める責任があります。 ハイネケンは「三菱UFJフィナンシャル・グループは、GARが責任あるパーム油のみの調達を確実にするために、資金提供の必要条件として監視強化や、サプライチェーンのコンプライアンス管理体制強化を徹底させるべきです」と強調しました。

GARはインドネシアの大手財閥、シナルマス・グループのパーム油子会社で、創業家のウィジャヤ・ファミリーが支配しています。 シナルマスのパーム油部門は、2016年から2020年4月まで、インドネシアの銀行のバンクネガラインドネシア(BNI)、バンク・ラクヤット・インドネシア(BRI)、オランダの銀行のABNアムロ、MUFGなどから35億米ドルを超える融資と引受を受けました。これはDPL社による人権侵害と森林破壊の証拠がGARに提起されたのと同じ時期です。

DPL社の事業管理地は世界的に重要な熱帯低地林「ルーセル・エコシステム」内に位置し、同熱帯林には高濃度の炭素を蓄えた泥炭地があります。同社はその一つのトリパ泥炭地に事業地を保有し、パンテ・チェルミン村はトリパ泥炭地域にあります。

注1)詳細はこちら:“Major Brands and Banks Complicit in the Production of Conflict Palm Oil on Stolen Community Lands in Indonesia”(英語)

注2)アチェ州議員 Said Syamsul Bahri 氏が所有

注3)RAN「森林と金融」データベース

注4)「MUFG環境・社会ポリシーフレームワーク」

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

プレスリリース:MUFG、株主総会でパリ協定に整合する投融資を約束せず (2020/6/29)

〜メガバンクで最も弱いESG方針〜

米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、本日29日、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が15期定時株主総会に株主として参加しました。同社はRANの質問に対して、化石燃料および森林破壊への投融資について、パリ協定との整合に必要な段階的廃止を表明せず、国連責任銀行原則(PRB)が求める行動を満たしていない状況が判明しました(注1)

RANら環境NGOは、会場のグランドプリンスホテル新高輪前で化石燃料への投融資に反対するバナーを掲げ、株主にアピールしました。環境NGOはメガバンク全ての株主総会で気候危機を加速させる投融資に反対するアピール行動を行いました。 特に、25日のみずほフィナンシャルグループの株主総会では、環境NGO「気候ネットワーク」が日本初の気候危機に関する議案を提出し、株主の三分の一以上が議案に賛成しました(注2)。

MUFG の株主総会に参加したRAN日本代表の川上豊幸は「三菱UFJフィナンシャル・グループは、石炭だけでなく、石油・ガスなどの化石燃料や熱帯林破壊による気候危機を加速させている企業へ多額の投融資をしています。株主総会では、パリ協定の目標達成に必要なタイムラインに沿って、あらゆる化石燃料と森林破壊への資金提供を段階的に廃止することを約束すべきではないかと質問しましたが、質問に答えることはなく、方針を復唱しただけでした。このような不誠実な姿勢では、今年のみずほと同様に、来年はMUFGが厳しい株主提案を受ける可能性もあります」と批判しました。MUFGは国連が支援する責任銀行原則(PRB)に昨年9月に署名し、国連の持続可能な開発目標(SDGs)やパリ協定に沿った資金提供の実施を約束しています(注3)。

RANの「化石燃料ファイナンス成績表2020」によると、2015年12月のパリ協定採択以降のMUFGによる化石燃料部門への融資・引受額は世界6位で、みずほと三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)を上回っています (注4)。炭素予算(排出可能と考えられる炭素量)には化石燃料採掘やインフラ拡大の余地がないことを考えると、化石燃料拡大への資金提供は特に問題です。

 MUFGはまた、熱帯林の破壊を引き起こしているパーム油産業の日本最大の資金提供者であり、世界中の森林破壊を推進する最も影響力のある銀行の一つであると指摘されています(注5)。今年はオイルサンドと北極圏の石油・ガスについての方針を採用し、ここ数年は石炭とパーム油に関する方針を採用しました (注6)。しかしながら、問題のある企業やプロジェクトへの資金提供を継続し、MUFGの方針や投融資の実施状況は気候危機やその他のESGリスクを適切に対応するには不十分であることを示しています。

川上は「MUFGは、熱帯林や泥炭地を破壊し、人権を侵害している主要なパーム油および紙パルプ企業に融資し続けています。 MUFGはまた、主要な新しい石炭インフラだけでなく、北米のキーストーンXLを含むオイルサンド・パイプラインにも融資等をしています。大統領候補のジョー・バイデン氏は、自身が当選した場合、気候危機への対応のためにこの事業の建設中止を公約しています。 MUFGが持続可能性リーダーシップを示すことができなければ、さらに国内外の投資家から大きな圧力を受けることになるでしょう」と続けました。

注1)RANの質問概要とMUFGの回答は以下の通り。
RANの質問:「今年3月の朝日新聞記事(※)では、MUFGがインドネシアでの違法な熱帯林破壊に加担していることが報道されました。MUFGによるパーム油産業への多額の融資のためです。MUFGはまた、化石燃料に資金提供する日本最大の銀行であり、アメリカで大勢の先住民族による反対運動に直面しているオイルサンドのパイプライン建設にも多額の融資をしています。残念ながら、MUFGのESGに関する与信方針は、他の2メガバンクの方針よりも弱くなっています。 そこで質問ですが、MUFGは持続可能性リーダーシップを取り戻し、パリ協定の目標を達成するために必要なタイムラインに沿って、全ての化石燃料と森林破壊への資金提供を段階的に廃止することを約束すべきではないでしょうか?」

MUFGの回答:「留意する事業として位置付けている森林セクター、パームオイルセクターにおいては、お客様の環境社会の配慮の実施状況を確認する意味で、その認証の取得を目指したり、認証取得の計画の提出への取り組みをしている。オイルサンドについては、今年発表した環境社会ポリシーフレームワークで新たに留意する事業に追加しました。地域の生態系への影響、先住民族の地域社会への影響をお客様の環境社会への配慮の状況をしっかり確認するなど、MUFGとしては、これらの様々なポリシーに基づいて持続可能な環境社会の実現、パリ協定の合意事項の実現に向け貢献していきたい」

※朝日新聞記事「環境 転換点2030:農園開発、地球脅かす パーム油、持続可能な生産模索 奪われた原生林、取り戻せるか」(2020年3月22日朝刊)

注2)気候ネットワーク「プレスリリース:多数の海外投資家がみずほFGに対する気候ネットワーク株主提案を支持」、2020年6月25日

注3)NGO共同声明「グリーンウォッシュはもういらない、好結果がともなう原則を〜国連『責任銀行原則』発足をうけて〜」 (2019/9/23)
※責任銀行原則には、日本では3メガバンクと三井住友信託銀行が署名している。

注4)NGO共同プレスリリース「RAN他『化石燃料ファイナンス成績表2020』発表〜3メガバンク、パリ協定後も化石燃料に約2,814億ドルを資金提供〜みずほ、三菱UFJが世界トップ10入り」2020年3月18日

2016年から2019年の間に、MUFGは化石燃料の全セクターに119億ドル、みずほは103億ドルを提供した。 セクター別に見ると、MUFGはオイルサンド、北極圏の石油・ガス、フラッキング、石炭採掘、石炭火力それぞれのトップ30〜40企業の中で日本最大の資金提供者です。

注5)RANプレスリリース「2020新キャンペーン開始!『キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう』〜17社の消費財ブランド&銀行を対象〜」2020年4月1日

注6)三菱UFJフィナンシャル・グループ、「『MUFG 環境・社会ポリシーフレームワーク』の改定について」、2020年5月13日

※参考:RAN声明「三菱UFJ、新ESG方針を発表するも『期待外れ』〜気候変動対策・森林保護、3メガで最も進展のない方針改訂〜」2020年5月14日

RANはMUFGの資金提供について以下の点を指摘してきました。
●環境・人権面で諸問題を抱える「紛争パーム油」への世界最大の資金提供者の一つで、気候危機を加速させた昨年のインドネシア森林火災にも加担した。
●今年3月にRANらが発表した報告書「化石燃料ファイナンス成績表 2020」では、パリ協定締結以降の化石燃料事業への融資・引受額が世界で6番目に大きく、2016年から2019年に1,188億米ドルの資金提供が行われたことが明らかになった。
●MUFGは北米のオイルサンド・パイプライン企業への主要な資金提供者であり、資金提供先にはエンブリッジ社が建設するライン3石油パイプライン、TCエナジー社が建設するキーストーンXLパイプラインが挙げられる。さらに、気候災害と先住民族の権利侵害と明確なつながりが指摘されているにも関わらず、新型コロナウイルス感染拡大の最中に両社へ新規の資金提供を約束した。
●北極圏での石油・ガス開発への資金提供額における世界4位の金融機関で、新規の石炭火力発電所へのファイナンスの原則的な停止を約束したにもかかわらず、議論を呼んでいるベトナムのブンアン 2のような新規石炭火力発電事業への資金供給を続けている。

団体紹介
レインフォレスト・アクションネットワーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境・森林保護で最前線に立つ人々とのパートナーシップと戦略的キャンペーンを通じて、環境保護と先住民族や地域住民の権利擁護活動をさまざまな角度から行っています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

ブログ:新型コロナウイルスとつながる熱帯林破壊、メガバンクらの対応分かれる(2020/5/28更新)

責任ある金融 シニア・キャンペーナー ハナ・ハイネケン
(本ブログはRIEF環境研究機構に4月29日に寄稿したものです。5月28日更新)

写真:インドネシアの泥炭地での違法皆伐、2017年 AIDENVIRONMENT提供

現在、世界中で感染が拡大している新型コロナウイルス。実は、東南アジアなどに広がる熱帯林の破壊と大きく関係している。日本の金融機関は投融資を通じて、東南アジアの熱帯林破壊を助長してきた。

日本の金融機関の責任が問われる中、4月中旬に発表されたみずほフィナンシャルグループ(みずほ)と三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)の方針改定では、この問題に真摯に対応し始めていることが見受けられる。三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は林業とパーム油に関する方針を昨年策定した。今後の改訂方針で強化される可能性はあるが、2行と比べて対応が遅れている(*)。

そこで大きな課題となるのは、各銀行がどのような基準を設け、その基準がどのように実施されるかという点だ。ここではメガバンク3行をはじめ、東南アジアへの投融資が比較的多い三井住友信託銀行、農林中央金庫と野村グループも加え、各社のエクスポージャーと対策を比較してみる。

熱帯林保護は感染症予防策


今年4月、国連環境計画(UNEP)のインガー・アンダーセン事務局長は、新型コロナウイルスの感染拡大について、「自然を上手く管理すれば、人間の健康も維持できる(”The better we manage nature, the better we manage human health”)と見解を発表した

壊れやすい生態系に人間が入り込むことで、人間と野生生物の接触がかつてないほど増大していることや、違法な野生生物取引が深刻な感染症を悪化していると説明している。新しい感染症の約75%は人畜共通感染症であり、こういった感染症から毎年約10億の事例と数百万人の死者が発生していると警鐘を鳴らしている。

「動物由来感染症の危機を拡大させる要因(動物から人間にうつる病気)」
森林破壊や他の土地利用転換
規制が弱く違法な野生生物取引
農業と家畜生産の増大
細菌の薬剤耐性
気候変動
出典:国連環境計画 *RANによる仮訳

パーム油、紙パルプ、木材、大豆、牛肉などの産品は、森林を犠牲にして生産されることから、総称して「森林リスク産品」と呼ばれる。農園や植林地開発のために森林は伐採され、開発に伴う道路建設はさらなる森林破壊を引き起こし、違法伐採等の事業活動のために森林へのアクセスを容易にする。森林を分断して野生生物の移動ルートを遮断し、生息地を断片化する。

陸上生物種の大半が熱帯林に生息していることを考えると、感染症の予防策として、熱帯林を保護することは特に重要である。また、熱帯林は二酸化炭素の吸収など、気候の安定にも極めて重要な役割を果たす。周辺で暮らす数百万人もの地域住民や先住民族にとっては住居であり、生活の柱であり、宗教的または精神的な拠り所でもある。そのため、国連「持続可能な開発目標」(SDGs)目標15では「2020年までに、あらゆる種類の森林の持続可能な管理の実施を促進し、森林破壊を阻止し、劣化した森林を回復」するという目標を掲げているのだ。

日本の金融機関の熱帯林破壊との関わりと対応

では、メガバンクをはじめ、東南アジアの熱帯林にエクスポージャーがある日本の金融機関は熱帯林破壊にどのように関わり、どのように対応しているのだろうか。

日本の金融機関の中でも、特にメガバンクの投融資先には、東南アジアの熱帯林や泥炭地を破壊し、人権侵害に関与している企業が複数ある。そこには東南アジアで事業展開している紙パルプ企業やパーム油企業だけでなく、現地でパルプ、木材、天然ゴムを生産または加工している王子製紙、丸紅、住友林業、伊藤忠住友ゴムといった日本企業も含まれる。

以下の表は、東南アジアの熱帯林に悪影響を及ぼしている100社のうち、資金提供金額が最も多い上位10企業の森林リスク部門に、日本の金融機関が行った投融資の流れと金額を示している(2017年〜2019年8月)。

このうち、最も資金調達が多いのは王子製紙である。実は、同社は世界中で紙パルプ事業を展開し、インドネシアでの合弁パートナー3社(コリンド社インドフード社/サリム・グループAPP社/シナルマス・グループ)は「ブラック企業」と言われるほど、熱帯林破壊や違法性、人権侵害を含む環境・社会問題が長年指摘されてきた。しかし合弁事業は継続または開始されている。SMBC三井住友信託銀行が主な資金提供者である。

また、MUFGは他の金融機関と比べて、東南アジアを拠点とする企業、特にシナルマス・グループおよびサリム・グループのパーム油企業への投融資が多いことが特徴的である。これらの企業グループは、2019年の森林火災への関与が理由で、インドネシア政府に農園事業を凍結された農業関連企業に含まれる。

日本の金融機関から東南アジアの熱帯林破壊に関与している企業への資金の流れ(2017年〜2019年8月)
左:金融機関名の左に表記されているのは融資・引受・投資額
右:企業名の右に表記されているのは資金提供を受けた金額
単位:百万米ドル、森林リスク事業のみの金額に調整済み
出典:「森林と金融データベース」(forestsandfinance.org)

みずほ、邦銀で最も厳しいESG方針を発表

4月15日に発表されたみずほの方針改定では、熱帯林破壊の阻止に重要な対策が新規に採用されている。東南アジアの熱帯林破壊の8割は農業用の土地転換が要因であり、その多くはパーム油、紙パルプ、林業の生産のための大規模開発によるものだ。

今回の方針では、パーム油、木材・紙パルプ 部門への投融資において、グローバル・ベストプラクティスである「森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ方針」(NDPE: No Deforestation, No Peat and No Exploitation)の策定を投融資先に要求し、地域住民等への「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC: Free, Prior and Informed Consent)の尊重を求めることにしている。また、MUFGの方針から見習って、セクターを横断して、児童労働・強制労働を行っている事業、ラムサール条約指定湿地およびユネスコ指定世界遺産へ負の影響を与える事業、そしてワシントン条約に違反する事業には投融資等を行わないことにし、先住民族の地域社会に負の影響を与える事業や非自発的住民移転につながる土地収用を伴う事業に対しては取引先の対応状況を確認するとしている。

邦銀でNDPEとFPICを投融資先に明確に求めているのは、みずほの方針が初めてだ。画期的な方針といえ、他のメガバンク2行、三井住友信託、農林中金、野村グループの方針を超えた基準であることは明らかだ。

環境と社会に対してポジティブ・インパクトを及ぼすためには?

以下に、各金融機関の「森林リスク産品部門」に関する方針内容をまとめた。

森林リスク産品部門における各金融機関の方針

各金融機関の方針サイトへのアクセス
みずほ SMBC MUFG 三井住友信託 野村グループ 農林中金

上記の通り、この2年間で日本の金融機関の対応は確実に強化された。しかし、環境と社会に対してポジティブ・インパクトを及ぼすためには、みずほが採用した「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止方針」(NDPE基準)を含む方針の強化、そしてその徹底的な実行が重要だ。

MUFGの森林セクターについての方針改訂は、NDPE方針を含むかどうかが評価の目安の一つとなる。MUFGは日本最大の銀行として、東南アジアも含め、世界中で銀行業務を展開している上でも、3メガで最も厳しいESG方針を策定することが期待される。同時に日本を代表する銀行として、世界の銀行と競い合っていくという、他の銀行にはない大きな責任も負っている。

*MUFGは5月13日にESG(環境・社会・ガバナンス)与信方針を改定したが、NDPE基準やFPICといった国際的なベストプラクティスは策定されず、不十分な改訂となった(5月28日更新)。

参考:NDPE方針、FPICについてはRAN報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」を参照ください。

ハナ・ハイネケン(Hana Heineken)
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)「責任ある金融キャンペーン」 シ二ア・キャンペーナー。米プリンストン大学、ベースロースクール卒業。東京生まれ。

声明:三菱UFJ、新ESG方針を発表するも「期待外れ」 (2020/5/14)

〜気候変動対策・森林保護、3メガで最も進展のない方針改訂〜

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、本日14日、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)がESG(環境・社会・ガバナンス)与信方針を13日に改定した(注1)ことを受けて、国内外の銀行、特にみずほフィナンシャルグループ(みずほ)および三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)と比べて「改訂は不十分で期待外れである」と批判しましたRANはMUFGに対して、熱帯林に壊滅的な影響をもたらすパーム油事業や国内外での化石燃料事業拡大への資金提供について、数年にわたって様々なESG問題を指摘してきました。

写真:MUFG子会社ユニオン・バンク本社前でのアピール行動、サンフランシスコ、2019年6月

RAN「責任ある金融」シニアキャンペーナー ハナ・ハイネケン

「新型コロナウイルスの感染拡大は森林破壊と関係があり、国連環境計画(UNEP)は生態系や野生生物への脅威に取り組む必要性はかつてないほど高まっていると指摘しています(注2)。その最中に発表された今回の改訂は、三菱UFJが環境・社会面でのリーダーシップを取ることに失敗したことを意味し、期待外れで失望しています。新たな感染症拡大を防ぐためにも気候危機への対応と熱帯林保護が重要ですが、今回の方針改訂で、三菱UFJは気候の安定化と地球に残る最後の熱帯林よりも自社利益を優先するという決定を下したことは批判されるべきです」

他のメガバンクの与信方針と比較した重要な違いは以下の通りです。

●みずほ方針との違い:石炭火力発電事業への資金提供における段階的廃止のスケジュールが約束されていない。また「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止方針」(NDPE方針:No Deforestation, No Peat and No Exploitation)、地域コミュニティの権利を尊重する「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC: Free, Prior and Informed Consent)に代表される、森林セクターでの資金提供における国際的なベストプラクティスが策定されていない。
●SMBC方針との違い:パーム油向け新規農園開発時に森林および生物多様性の保護を公約していない。また、森林伐採での土地開墾の際の火の不使用を確認する記述もなく、持続可能性の評価に脆弱な認証システムに頼っている。

MUFGは、RANが4月に開始した新キャンペーン「キープ・フォレスト・スタンディング〜森林と森の民の人権を守ろう〜」の対象企業で、唯一の邦銀です(注3。気候、生物多様性や先住民族にとって重要な熱帯林と泥炭地に大きな影響を及ぼしている企業として選ばれ、RANはMUFGの資金提供について以下の点を指摘してきました。

●環境・人権面で諸問題を抱える「紛争パーム油」への世界最大の資金提供者の一つで、気候危機を加速させた昨年のインドネシア森林火災にも加担した(注4)。
●今年3月にRANらが発表した報告書「化石燃料ファイナンス成績表 2020」では、パリ協定締結以降の化石燃料事業への融資・引受額が世界で6番目に大きく、2016年から2019年に1,188億米ドルの資金提供が行われたことが明らかになった(注5)。
●MUFGは北米のオイルサンド・パイプライン企業への主要な資金提供者であり、資金提供先にはエンブリッジ社が建設するライン3石油パイプライン、TCエナジー社が建設するキーストーンXLパイプラインが挙げられる。さらに、気候災害と先住民族の権利侵害と明確なつながりが指摘されているにも関わらず、新型コロナウイルス感染拡大の最中に両社へ新規の資金提供を約束した(注6)。
●北極圏での石油・ガス開発への資金提供額における世界4位の金融機関で、新規の石炭火力発電所へのファイナンスの原則的な停止を約束したにもかかわらず、議論を呼んでいるベトナムのブンアン 2のような新規石炭火力発電事業への資金供給を続けている(注7)。

ハイネケンのコメント(続き)

「MUFGの方針は、企業の『二枚舌』の典型的な事例です。新方針はオイルサンドと北極圏の石油・ガス開発をリスクの高いセクターと認識していますが、パリ協定と方針を合致させたいのであれば、化石燃料事業への融資制限の基準と明確な段階的廃止計画が必要です。熱帯林破壊と化石燃料開発への世界最大の資金提供者の一つとして、三菱UFJは基準強化に全力で取り組まなければ、大きなレピュテーションリスクになります」

英語の声明はこちら: “MUFG Falls Behind Peers in New ESG Finance Policy Announcement”

脚注

注1)三菱UFJフィナンシャル・グループ、「『MUFG 環境・社会ポリシーフレームワーク』の改定について」、2020年5月13日

注2)国連環境計画、「Working With the Environment to Protect People: UNEP’s COVID-19 Response」(英語)

注3 )RANプレスリリース「2020新キャンペーン開始!『キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう』〜17社の消費財ブランド&銀行を対象〜」 2020年4月1日(5月14日更新:日本語要約版追加)

注4)RANプレスリリース「新報告書『森林火災・違法行為とメガバンク』発表〜3メガ、炭素吸収源の熱帯林破壊に加担し『気候危機』を加速〜」2020年1月29日

注5)NGO共同プレスリリース「RAN他『化石燃料ファイナンス成績表2020』発表〜3メガバンク、パリ協定後も化石燃料に約2,814億ドルを資金提供〜みずほ、三菱UFJが世界トップ10入り」2020年3月18日

注6)RAN本部プレスリリース「Reckless Keystone XL Decision by TC Energy Endorsed by JPMorgan Chase, Citi and Canadian Peers」(英語)、2020年4月3日

注7)マーケット・フォース「ブンアン2石炭火力事業に融資しないで!」

団体紹介
レインフォレスト・アクションネットワーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境・森林保護で最前線に立つ人々とのパートナーシップと戦略的キャンペーンを通じて、環境保護と先住民族や地域住民の権利擁護活動をさまざまな角度から行っています。

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広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

ブログ:三菱UFJは、森林保護、気候変動対策、人権尊重の強化を(2020/5/8)

三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は持続可能な社会の実現に貢献すると約束しているにも関わらず、実際は、森林破壊と気候変動を加速し、人々の生活を脅かしています。このような問題に対応すべきESG(環境・社会・ガバナンス)与信方針も、4月のみずほフィナンシャル・グループと三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)の方針発表で、遅れを取ってしまいました。これではサステナビリティ・リーダーにはなれません。MUFGは、実際どのような批判対象となる投融資を行なっているのでしょうか?

熱帯林を破壊しているパーム油企業等に投融資

MUFGは、熱帯林破壊を加速しているパーム油部門に、世界で最も融資している金融機関の一つです。二酸化炭素の吸収源として、そして大半の陸上生物多様性の生息地としても重要な役割を果たす熱帯林は、パーム油や紙パルプ等の生産のために急速に失われています。森を長年守ってきた地域住民の生活と権利も脅かされているのです。

MUFGは、熱帯林の重要性を認識しつつも、保護に必要な対策を十分に取らず、熱帯林を破壊している企業に融資を続けています。これでは、2020年までに森林減少を阻止しようという国連「持続可能な目標」(SDGs)の目標15を実現することはできません

インドネシア、スマトラ島・アチェ半島上空。Duta Rendra Mulyaによる森林破壊の光景。

気候危機を悪化している石炭、石油ガスの拡大へ投融資

パリ協定が採択された2015年以降の4年間、MUFGは化石燃料部門に1,188億ドル(約12.7兆円)の融資・引受を提供し、その金額は世界6位、国内ではトップの金融機関でした。最近の資金使途には、ベトナムでの新規石炭火力発電所の他、高炭素で汚染リスクが高いオイルサンド・パイプライン建設やシェールガス開発、そして巨大炭鉱事業にも融資しているのです。

科学的知見によれば、パリ協定の目標を満たすためには化石燃料の拡大を直ちに止める必要がありますが、MUFGは化石燃料への投融資を段階的にやめる約束を一切していません

***

MUFGが真のサステナビリティ・リーダーになるには、社会的責任を果たしている他の大手金融機関のベストプラクティスを見習い、ESGに関する投融資方針とその実施を次のように強化する必要があります

1. 森林、特に熱帯林に影響を及ぼす林業・農業関連企業には、ベストプラクティスである「森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止(NDPE)」基準遵守を要求すること

2. パリ協定の1.5度目標に沿って、化石燃料への投融資を段階的に停止し、化石燃料を拡大させる投融資は直ちに止めること

3. 人権、特に先住民族の権利を尊重し、人権侵害を起こすプロジェクトには投融資をしないこと

4. 高リスク部門をはじめ、ESGリスクの管理・監督の実効性を向上すること

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