サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

‘気候変動’カテゴリーの記事一覧

地上に残された貴重な森「ルーセル・エコシステム」が破壊の危機に(2019/5/15)

日本代表 川上 豊幸
(本記事は地球・人間環境フォーラム『グローバルネット』(2019年5月号)に寄稿したものです)

「ルーセル・エコシステム」は、インドネシア・スマトラ島北部に位置し、まとまった形で残されたアジア最大の熱帯林地帯の一つです。長野と新潟の2県の広さに匹敵する約260万haの広大な地域に、絶滅危惧種のスマトラゾウ、サイ、オランウータン、トラが大自然の中で共存する地球上で最後の場所です。この豊かな生物多様性ホットスポットは、良質な水の安定供給、漁業に最適な環境、洪水や干ばつの防止、農業に適した気候に加え、小規模分散型の水力発電の可能性、観光にもってこいの自然美、生物多様性の提供など、地域社会の経済や地球の気候や環境にとって重要な利益をもたらしています。山岳地帯は世界遺産に指定されていますが、森林地帯はパーム油や紙の原料を得るためのプランテーション開発の危機にさらされており、保全を求める声が世界から集まっています。

生物多様性の重要性とルーセルの二つの森

科学者や自然保護活動家たちは多くの理由から、ルーセル・エコシステムを「保護価値の高い(HCV)」地域に分類しています。この地域には山地林と低地林の2種類の森林があります。山地林には絶滅の危機に瀕する希少種のスマトラサイが生息し、野生では100個体以下しか残っていません。またスマトラサイが餌とする多様な植物が生育し、種の生存にも不可欠です。シカ、クマ、トラ、ウンピョウなどの大型動物も生息しています。低地林も重要で、ルーセル・エコシステムで最も高い生物多様性が存在しています。世界で最大かつ最も背が高い花の2種、ラフレシアとスマトラオオコンニャクが見られ、また地域で最も樹高のある木々が育ち、スマトラオランウータン、トラ、ゾウ、サイなどの絶滅危惧種やマレーグマに貴重な生息地を提供しています。さらに、ウンピョウ、サイチョウ、また、多くの種類の霊長類や、サル、シカ、昆虫、両生類、爬虫類、鳥類の個体群を支えています。

絶滅が危惧されているスマトラオランウータン (©Paul Hilton/RAN)

地球規模の気候変動に効果のある「炭素貯蔵吸収スポンジ」

ルーセル・エコシステムには、何十億tもの高濃度炭素を蓄えた三つの主な泥炭地、トリパ、シンキル、クルエットがあります。その泥炭の深さは12m以上に達し、面積は香川県ほどの約18.4万ha以上に達します。これらの泥炭地では木が自然に枯れて、湿った地面に倒れ、通年浸水しているため、木々の落ち葉や枝、倒れた幹はゆっくりと炭素豊かな泥炭へと変化します。こうして何世紀にもわたって、水の下の深い泥炭堆積物の中に炭素が貯蔵され、隔離された炭素は放出されず、地球温暖化の緩和に役立っています。一方で、泥炭地が農地転換され、排水されると、大規模な酸化で炭素が一気に大気へ放出され、温暖化を進める二酸化炭素(CO2)が大気に蓄積されてしまうのです。

アブラヤシ農園の開発による森林破壊とパーム油

過去30年間、大規模アブラヤシ農園企業と紙パルプ企業が、農園や植林地を拡大するため、数百万haもの泥炭地で森林を伐採し排水してきました。乾燥した泥炭は可燃性が高く、度重なる火災で膨大な量のCO2が放出されます。インドネシアの泥炭火災のCO2の排出量1年分は、西欧全体の化石燃料排出量と同等と推定され、同国は中国と米国に次いで世界第三位のCO2排出国です。

現在、この泥炭地を含む低地林とそこに依存する動植物は、アブラヤシ農園拡大が原因で最大のリスクに直面しています。専門家は、ルーセル・エコシステムの低地林や泥炭地が破壊されると、スマトラオランウータンが野生下で絶滅する最初の類人猿となる可能性があると警告しています。そんな負の遺産は残すべきではありません。

この人為的災害は世界的なパーム油需要の急増によるものです。パーム油は世界で最も広く使用されている植物油で、主にインドネシアやマレーシアで栽培され、世界中に輸出されています。今やアブラヤシ農園はルーセル・エコシステムを含むインドネシアの熱帯林の中心部へと深く侵入し、同時に土地収奪、地域住民との紛争、人権侵害、汚職、労働搾取も引き起こしています。

アブラヤシ農園開発のために伐採されるルーセル・エコシステムの低地林(©Paul Hilton/RAN)

ルーセル・エコシステムを救うために私たちにできること

このような問題を解決するには、消費者や企業による「責任あるパーム油」の需要拡大と、問題のある「紛争パーム油」の排除が必要です。パーム油生産者、加工業者、貿易業者、資金提供者、消費財メーカーに原材料から問題を抱えているパーム油を除外するよう大きな声を届け、購買力を使って働き掛ければ、企業はビジネスのやり方を変えざるを得なくなります。

また、俳優のレオナルド・ディカプリオら有名人も取り組む世界的キャンペーン「ルーセルを愛そう」に参加し、この問題を日本でも広く知らせ、企業に問題への対処を促すこともできます。

米国の環境NGOのRANは、1985年の設立以来、環境・森林保護と先住民族や地域住民の権利擁護活動を行ってきましたが、2013年からはスナック食品企業20社に対して責任あるパーム油調達を求めています。多くの企業が改善へと動く中、日清食品と東洋水産は最も対応が遅れています。主な即席麺製品には大量のパーム油が使用されていますが、2社はパーム油調達方針の策定はしたものの不十分で、森林破壊に直接関係したり、オランウータンの死亡や住民立ち退きへの関与リスクが高いパーム油を排除する対応が不足しています。とくに日清食品は持続可能な大会を目指す東京五輪のスポンサーであり、RANでは同社に改善を求める国際署名を行っています。

また金融機関に紛争パーム油やルーセル・エコシステムの破壊に資金を提供しないよう求めることもできます。過去5年、アジアの一部の銀行は森林破壊のリスクがある事業の最大の資金提供者であり、日本の3メガバンクが融資するパーム油企業でも、労働権侵害、土地紛争、違法なアブラヤシ農園、森林減少などのリスクに直面しています。

一人ひとりが企業や政府が自然保護への誓約を守り、企業や銀行が自社の行動に責任を持つよう働き掛けることで、問題解決に向けた動きがうねりを作って変化につながると考えています。

メディア掲載:Sustainable JapanでNGO50団体のフィナンシャル・タイムズ全面広告が紹介されました(2019/4/25)

Sustainable Brands「国際環境NGO50団体、安倍首相へ脱石炭火力を求める全面意見広告をFTに掲載 」( 2019/04/25)

日本及び海外の環境NGO50団体は4月18日、安倍晋三首相に対し、気候変動対策を強化し、石炭火力から脱却するよう求める全面意見広告を、英紙フィナンシャル・タイムズに掲載した。安倍首相は、同紙に2018年9月24日に寄稿し、「地球を救うために日本とともに行動しよう(Join Japan and act now to save our planet」というメッセージを世界に発信していたが、それを逆手に取る意見広告となっている。

 今回の意見広告掲載に参加したのは、グリーンピース、世界自然保護基金(WWF)、レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)、Friends of the Earth(FOE)、Urgewald、350.org、シエラクラブ、バンクトラック、気候ネットワーク、「環境・持続社会」研究センター(JACSES)、気候行動ネットワーク(CAN)インターナショナル等。 続きを読む

NGO共同声明:三菱UFJが原則として新たな石炭火力発電融資を行わない方針を検討 脱石炭への取組み強化に期待 (2019/4/12)

(English follows Japanese)
本日12日、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が、石炭火力発電所への融資残高を2030年度までに最大半減する方向で検討を行っていると報道された。MUFGは、昨年5月15日に融資及び引受に適用される「MUFG環境・社会ポリシーフレームワーク」の制定を発表したが、私たちは化石燃料ファイナンスに関しては十分な配慮が見られないと指摘していた。今回、新設の石炭火力発電への融資を原則実行せず、石炭火力発電所への融資残高を2030年までに3~5割減らすとする、3大金融グループの中で最も前向きな方針を検討していることを歓迎する。

しかし、原則として融資を実行しないとしても、原則外でどのような条件が設定されるかは明確ではない。また、建設前であっても既に融資契約を締結した案件や交渉中の案件は新方針の対象外となり得るため、実質的には今後数年間は石炭火力発電への融資が続く可能性がある。融資残高を2030年までに3~5割減らすとの目標は、既存の融資の段階的な償還を考慮すれば、まだまだ新規融資が可能な水準であり、パリ協定と整合的な目標であるとは言えない。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク他が最近発表した報告書「化石燃料ファイナンス成績表」(注1)では、MUFGが日本の銀行の中で2016年から2018年の化石燃料全般への融資・引受額が最も大きい銀行であると指摘されており、世界の主要33銀行の順位でも7位に入っている。石炭火力部門に対する融資・引受額は世界で6位となった。同レポートにおけるMUFGの方針評価は、化石燃料拡大への段階的停止で明確な融資制限がなかったことから最低の格付けとなった。さらに3月28日には、環境省が特に二酸化炭素(CO2)の排出が多い石炭火力発電所の新設と増設の抑制を図る方針を公表したことからも、石炭火力への融資額が突出している日本の銀行、特にメガバンクにはより積極的な石炭への融資削減が求められる。

パリ協定の目標達成のためには、新規の石炭火力発電所を建設する余地はない。2018年10月に発表されたIPCCの特別報告書『1.5℃の地球温暖化』でも、さらに迅速な脱炭素化が急務であることが明確に示されている。

MUFGは、株式会社JERAが神奈川県横須賀市で建設を計画する「(仮称)横須賀火力発電所新1・2号機計画(計130万kW、運転開始予定:1号機2023年/2号機2024年)」(注2)やベトナムで建設計画中のバンフォン1石炭火力発電所事業をはじめ、国内外で多数の新規石炭火力発電事業計画に融資を行うとしている。これらの計画も「新規」に含めた数値目標を掲げ、より踏み込んだ対策を取るべきである。さらに、石炭火力発電事業へのプロジェクトファイナンス以外に、新設の石炭火力発電事業に関わる会社への企業融資や投資も抑制しなければならない。世界で石炭および化石燃料関連企業からのダイベストメント(投資撤退)が進む中、石炭火力発電事業向けの投融資残高の大きな銀行は、投資家からマイナス評価を受けることになる。石炭に巨額融資を行っているMUFGが5月に決定するとしている方針において、現時点で融資契約が締結していないものも含めあらゆる石炭火力発電事業及び関連企業への投融資を禁止とし、実質的な石炭火力への投融資額を削減する方向に検討を進め、さらに厳しい姿勢を示すことを期待する。

国際環境NGO350.org
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)
認定NPO法人 気候ネットワーク
国際環境NGO FoE Japan
国際環境NGOグリーンピース・ジャパン

注1) RAN、バンクトラック、シエラクラブ、オイル・チェンジ・インターナショナル、先住民族環境ネットワーク、オナー・ジ・アース、「化石燃料ファイナンス成績表 2019」(日本語要約版、2019年4月8日)
報告書全文(“Banking on Climate Change 2019 “ 英語)は3月20日に発表

注2)2019年3月26日、「(仮称)横須賀火力発電所新1・2号機計画」に対し市民団体は融資撤回を求める申し入れを行った。

報道
朝日新聞「石炭火力の融資、最大半減へ 環境に配慮 三菱UFJ」、2019年4月12日
日本経済新聞「石炭火力、狭まる包囲網 三菱UFJが新規融資中止へ 」、2019年4月12日

参考
NGO共同声明「小さな前進、しかし具体的な取り組み内容の向上が必要〜三菱UFJの環境・社会ポリシーフレームワークの制定について環境NGOが評価を公表」、2018年5月25日

For Immediate Release
CONTACTS: Shin Furuno, Senior Regional Campaigner, Asia Finance, 350.org : +81(0)70-2793-3648
Yuki Sekimoto, Rainforest Action Network, Japan Communications Coordinator, Email: yuki.sekimoto@ran.org

Mitsubishi UFJ Financial Group considers end to loans for new coal fired power projects. NGOs demand stronger action to withdraw from coal

TOKYO – Today, several newspapers have reported that Mitsubishi UFJ Financial Group(MUFG)is considering the announcement of a policy to halt all lending to new coal fired power plant projects in principle and reduce its outstanding loans to coal fired power projects by 30-50% by 2030.

350.org Japan, the Japan Center for Sustainable Environment and Society (JACSES), Rainforest Action Network (RAN), Kiko Network, FoE Japan and Greenpeace Japan have released the following statement:

“If adopted, MUFJ’s revised policy will be a clear improvement on its current lending and underwriting policy (“Environmental and Social Policy Framework”) released on 15 May 2018, which Japanese NGOs have criticised as being inadequate to meet the goals of the Paris Agreement. This time, we welcome the news that MUFG intends to end all lending to new coal fired power in principle and reduce coal plant loan exposure by up to 50% by 2030. If the policy is formalised, it would be the most progressive policy on coal among Japan’s three major financial groups.”

“While lending to new coal fired power will be excluded in principle, the exact scope of the policy is unclear. The definition of “new” plants requires some scrutiny as it may not apply to new coal fired plants in the pipeline that are currently under negotiation or yet to reach financial close. If this is the case and normal debt reductions in outstanding loans are considered, the commitment to reduce outstanding loans to coal-fired power by 30-50% by 2030 means the new policy will still allow new financing of coal after the policy takes effect. Therefore, such a policy cannot be considered to be aligned with the Paris Agreement.”

“The Banking on Climate Change: Fossil Fuel Finance Report Card 2019″ authored by Rainforest Action Network and others [1] reveals that MUFG was the biggest lender and underwriter to all fossil fuels among Japanese banks since the Paris Climate Agreement ( 2016~2018), ranking 7th globally among the 33 global banks surveyed. MUFG was also ranked the 6th largest global financier to the coal power sector during the same timeframe. MUFG’s current policies on fossil fuel financing received the lowest grade of F, due to the lack of restrictions on financing fossil fuel expansion.”

“On March 28th, Japan’s Ministry of the Environment announced a policy to curb the development and expansion of coal-fired power plants. Given this announcement, Japanese banks that have substantial exposure to coal power, especially the megabanks, will be required to reduce coal lending more aggressively. In order to meet the goals of the Paris Agreement, there is no room to build new coal-fired power plants. The IPCC’s Special Report on “Global Warming of 1.5℃” clearly showed the urgent need for rapid decarbonization.”

“MUFG is currently involved in syndicated loans for numerous new coal fired power plant projects both in Japan and overseas. These projects include the 1300MW Yokosuka coal fired power plant being developed by JERA in Kanagawa prefecture of Japan (due to start operations in 2023-2024) as well as the Van Phong 1 coal fired power plant in Vietnam which is yet to reach financial close. These projects should be included in the new coal plants that are ineligible for funding from MUFG. Furthermore, restrictions on finance to new coal power should extend beyond project finance and include corporate finance to companies involved in coal fired power development. As divestment from coal and fossil fuel related companies gathers pace worldwide, financial institutions with substantial financial exposure to the coal sector will be negatively viewed by investors.”

“Considering MUFG’s considerable financial exposure to the coal sector, the company would do well to exclude all finance for new coal fired power, including projects that are yet to reach financial close and companies involved in the development of new plants. To ensure that the new policy – expected to be announced next month in May – results in a substantive restriction of new coal finance, we hope MUFG further tightens its policy in accordance with science-based targets.”


Notes to Editors:
[1] “Banking on Climate Change” was written by Rainforest Action Network, BankTrack, Indigenous Environmental Network, Oil Change International, Sierra Club, and Honor the Earth. To download the full report: here.

Reference
‘A Small Step Forward, But Not Nearly Enough’: Environmental NGOs Respond to Release of New MUFG Environmental, Social and Human Rights Policy,”350.org Japan, JACSES, Rainforest Action Network, Kiko Network, and FoE Japan, 25 May 2018


レインフォレスト・アクション・ネットワーク
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広報 関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

メディア掲載:日本経済新聞でRANらNGO共同提言が紹介されました(2019/4/12)

日本経済新聞「石炭火力、狭まる包囲網 三菱UFJが新規融資中止へ 国際世論からも圧力」(2019年4月12日付)〜RAN、350.org Japan、グリーンピース・ジャパン共同提言が紹介されました〜

「石炭火力発電所の新設を取り巻く環境が厳しくなっている。三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は石炭火力発電事業への新規融資を原則として中止する検討に入った。地球温暖化対策の一環で、二酸化炭素(CO2)の排出が多い石炭火力は世界的に資金が逃げている。主要な電源として活用を続ける日本のエネルギー戦略への影響も避けられない。MUFGは現時点で、世界での石炭火力発電所向けの融資残高が1兆円程度… 記事を読む

関連:NGO共同プレスリリース「3メガバンク、パリ協定後も化石燃料に約1,860億ドルを資金提供 新方針は気象災害を回避するには不十分〜RAN他『化石燃料ファイナンス成績表2019』日本語要約版発表〜」(2019/4/8)

NGO共同プレスリリース:3メガバンク、パリ協定後も化石燃料に約1,860億ドルを資金提供〜RAN他「化石燃料ファイナンス成績表2019」日本語要約版発表〜(2019/4/8)

〜新方針は気象災害を回避するには不十分〜

環境NGO レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)、350.org Japan、国際環境NGOグリーンピース・ジャパンは、「気候変動とSDGs」がテーマの社会的責任投資に関する世界最大級の国際会議『RIアジア・ジャパン2019』の東京での開催を前に、気候変動の影響が悪化しているにも関わらず、日本の銀行は世界中の石炭火力発電その他化石燃料に資金提供しており、「国際社会の厳しい監視に直面している」と喚起を促しました。

RAN他が本日8日に発表した新報告書「化石燃料ファイナンス成績表2019」日本語要約版(注1)によると、メガバンクの三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)、みずほフィナンシャルグループ、三井住友フィナンシャルグループ(SMBC)は、2015年のパリ協定採択後の3年間で合計1,860億ドルを世界の化石燃料部門に資金提供したことが明らかになりました。その事実を受けてNGO3団体は、3メガバンクは重大な評判リスクに加え、化石燃料インフラが座礁資産となるリスク、そして適切に開示されていないために最終的には投資家に悪影響を及ぼす可能性のある気候変動関連の金融リスクにさらされていると警告しました。

【化石燃料ファイナンス成績表2019】概要・調査結果

本報告書は、世界の主要銀行による化石燃料への資金提供をまとめたもので、今年で10回目の発表となります。今回は化石燃料部門の分析対象を広げ、世界の銀行(カナダ、中国、ヨーロッパ、日本、米国)による化石燃料セクター1,800社への資金提供を初めて分析しました。結果は厳しく、パリ協定締結後の2016年から2018年の3年間で、日本の3メガバンクを含む33行が石炭、石油、ガス分野で1.9兆米ドルの融資・引受を行ない、さらに過去2年間は融資・引受額が増加していたことがわかりました。1.9兆ドルの内、合計6,000億ドルが日本の電源開発(J-POWER)など化石燃料を積極的に拡大している企業100社に資金提供されました。 以下は、メガバンクに関する主な調査結果です。

MUFGみずほは、化石燃料セクターへの融資・引受額、及び化石燃料を拡大している上位100社への融資・引受額で、世界で上位10行に入る。
・MUFGは、化石燃料産業全体への日本最大の資金提供者で、メガバンクの中で気候変動を加速しているワースト銀行である。パリ協定締結以降800億ドルの資金を化石燃料に提供してきた。
MUFGみずほは、石炭火力発電関連企業の上位30社に資金提供している世界の上位10行に入り、パリ協定締結以降、それぞれ35億ドルと30億ドルを提供してきた。
SMBCは、北極圏の石油・ガス開発事業への世界3位の融資・引受元で、脆弱な北極圏の生態系と、先住民の暮らしと文化を脅かしている。
SMBCは、LNG輸出入ターミナルへの世界3位の融資・引受元で、アフリカのモザンビークの大規模輸出ターミナルに資金を提供している。同プロジェクトは、強制的に数千もの人々を移住させ、ユネスコ生物圏保存地域の生態系を脅かしている。

 

日本のメガバンクの方針格付について】

本報告書はまた、日本の銀行が昨年に発表した与信方針を格付けし、その結果、「パリ協定の目標に合致しているメガバンクはない」ことがわかりました。

「化石燃料拡大」への融資制限:SMBCの格付は、一部の石炭事業に融資等を禁止していることから「D−」となった。一方、MUFGみずほは明確な融資制限がないことから「F」(不可)となった。
・「石炭火力」への融資制限:石炭火力発電に関する新融資方針を3行が採用した結果、格付は昨年からわずかに高くなったが、石炭への継続的な資金提供を可能にする抜け穴があった。SMBCのみが石炭火力発電プロジェクトへの融資を部分的に禁止しているため、格付は「C−」となった。しかしMUFGみずほは、融資に関するデューデリジェンス(相当の注意による適性評価)方針の公開のみに止まったため「D +」となった。

格付を受けて、レインフォレスト・アクション・ネットワーク「 責任ある金融」シニアキャンペーナー ハナ・ハイネケンは「日本の銀行の新しい融資方針は、気候変動の緊急事態に対処するにはまったくもって不十分です。このような状況は、投資家にとって注意を払わなければならない『危険信号』となるはずです」と指摘しました。

※「化石燃料セクター」と「化石燃料拡大」の格付(一部。
詳しくは報告書をご覧ください)

日本の銀行が、国内外で石炭火力発電所やその他の化石燃料事業の開発に資金提供を続ける一方で、世界中で、化石燃料事業からのダイベストメントに向けてのスピードは速くなり、重要性も高くなっています。 グリーンピース・ノルディックの持続可能な金融キャンペーン・ディレクターのマーティン・ノーマンは、「100以上の世界的な金融機関が、燃料炭からの撤退または資金調達の制限を行っています。 その中には、世界トップ40の銀行の4割(16行)と、世界的な主要保険会社20社を含みます。また、進歩的な金融機関がダイベストメント決定のために設定する基準はますます厳しくなっています。現在、日本の銀行は世界の中で遅れを取っています」と語りました。

昨年、3メガバンクは気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言への賛同を表明しました。しかし、同提言に遵守する形での投融資ポートフォリオにおける炭素関連資産の開示、及びパリ協定が定めた二酸化炭素削減目標に沿った事業戦略は明確化されていません(注2)国際環境NGO350.orgの日本支部代表 古野真は「パリ協定が定める1.5〜2℃未満目標達成に整合した与信方針を策定することは、科学的知見に基づき、最もCO2排出量の多い石炭火力発電やその他化石燃料開発への新規投融資を停止し、自然エネルギー社会への公平・公正な移行を促す銀行業務を実施することである」と指摘しました。

世界気象機関(WMO)は先月、人為的な気候変動が加速し、2018年に起きた異常気象が世界中で6200万人を襲い、200万人が移住を余儀なくされたと発表しました(注3)。昨年発表された、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)「1.5度特別報告書」(注4) は、化石燃料の急速な段階的廃止の必要性を明確に説明し、クリーンエネルギーへの世界の投資需要は2035年までに年間2.4兆ドルになると推定しています。気候変動対処への緊急性から判断すると、日本の銀行の株主である主要投資家は、世界の気温上昇を1.5度に抑えるべく明確なスケジュールにそって、あらゆる化石燃料拡大プロジェクトおよび化石燃料の開発と関連インフラを拡大する企業への融資を全て禁止し、化石燃料の開発と関連インフラへの投資の段階的廃止を約束しなければなりません(注5)。

〜「化石燃料ファイナンス成績表2019」調査方法について〜

・対象銀行:米国、カナダ、日本、中国、欧州の33の民間銀行

・対象部門:世界の化石燃料事業全体、化石燃料事業の拡大、タールサンド、北極圏の石油・ガス、超深海の石油・ガス、シェールオイル・ガス、液化天然ガス(LNG輸出入ターミナル)、石炭採掘、石炭火力発電

・対象化石燃料企業:世界の化石燃料関連企業(約1,800社)。2016年から2018年まで3年間の民間主要銀行による融資・引受額を算定。化石燃料事業の拡大(上位100社)、各部門の上位30〜40社は1,800社に含まれる。

・融資・引受額は、対象となる化石燃料関連企業の当該部門の事業活動に基づいて割引して算出

注1)RAN、バンクトラック、シエラクラブ、オイル・チェンジ・インターナショナル、先住民族環境ネットワーク、オナー・ジ・アース、「化石燃料ファイナンス成績表2019」日本語要約版
英語要約版
報告書全文(英語)
※350.org Japanとグリーンピース・ジャパンは、本報告書を支持する163団体に含まれます。

注2)350.org Japan「メガバンク3社の気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)への対応について」 

注3)世界気象機関(WMO)” State of the Global Climate 2018 report”, 2019年3月28日

注4)IPCC特別報告書『1.5℃の地球温暖化』の政策決定者向け要約、2018年10月

注5)グリーピース・インターナショナルと研究者の国際ネットワーク、コール・スワームによる、『地球温暖化を1.5℃未満に抑えるために石炭を段階的に廃止する道すじ』は、2050年までに世界中でどのように石炭火力発電所を廃止するかのシナリオを示す。

※4月25日、日本語要約版の英訳 “Banking on Climate Change: Fossil Fuel Finance Report Card 2019 – Summary Version” を追加しました。

団体紹介

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

国際環境NGOグリーンピースは、環境保護と平和を願う市民の立場で活動する国際環境NGOです。問題意識を共有し、社会を共に変えるため、政府や企業から資金援助を受けずに独立したキャンペーン活動を展開してます。

350.org Japanは米国ニューヨークに拠点おく国際環境NGO 350.orgの日本支部として2015年4月に設立されました。350.org Japanは気候変動防止に向けた化石燃料への投資撤退「ダイベストメント」を広めるために、「レッツ、ダイベスト!」キャンペーンを展開しています。このキャンペーンを通じて、「パリ協定」で定められている気温上昇を1.5-2℃未満に抑える目標に整合した投融資方針を策定することを邦銀に市民とともに呼びかけています。350.orgは180を超える国と地域で活動を展開しています。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク
本件に関するお問い合わせ
広報 関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

RIEFでRAN「化石燃料ファイナンス成績表2019」が紹介されました(2019/3/21)

RIEF(環境金融研究機構)「国際的な主要銀行33行、パリ協定採択後3年間の化石燃料事業への投融資総額1兆9000億㌦(約200兆円)。毎年増加。1位は米銀JPモルガン・チェース。日本勢1位はMUFG」(2019年3月21日)〜RAN「化石燃料ファイナンス成績表」が紹介されました〜

国際的な環境NGOグループは、グローバルな主要33銀行の化石燃料関連事業への投融資総額が、2015年のパリ協定採択後の3年間で毎年増加し、総額1兆9000億㌦(総額約200兆円)に達したと公表した。投融資額が最も多かったのは米銀JPモルガン・チェース。上位12位中、半分を米銀が占め、パリ協定離脱を表明したトランプ政権の政策を映した形になった。日本勢は、7位に三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が入った。調査は、米環境NGOのシェラクラブや、レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)、BankTrackなどが共同で毎年実施する「化石燃料ファイナンス成績表」(Banking on Climate Change)で、今回が10回目。記事を読む

関連資料:NGO共同プレスリリース「3メガバンク、パリ協定後も化石燃料に約1,860億ドルを資金提供〜RAN他『化石燃料ファイナンス成績表2019』日本語要約版発表〜」(2019/4/8)