サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

‘パーム油’カテゴリーの記事一覧

プレスリリース:日清食品に新署名開始「問題あるパーム油はストップ Do It Now!」(2023/3/29)

熱帯林破壊、人権侵害、違法農園開発などへの早急な対応の意思表明を求めて〜2030年グローバル目標の大幅な前倒しを〜

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、3月21日、日清食品ホールディングスに、森林破壊や人権侵害、違法農園開発への早急な対応を求めて、「日清食品さん、2030年では遅すぎます。問題のあるパーム油は今すぐストップ!地球と未来のために、Do It Now!」署名を開始しました(注1)。

日清食品は2020年6月、2030年度までの「持続可能なパーム油調達比率100%」実現に向けてチャレンジするという目標を掲げました(注2)。署名活動や株主総会などを通じた働きかけを通じて、2021年6月に「国内即席めんの目標を2025年度とする」と改善されましたが、それ以外の調達での目標年は2030年度のままです。対応は遅く、高まる消費者の期待を裏切るものです。2023年3月時点で、同社はグループ全体の「RSPO (持続可能なパーム油のための円卓会議)」認証パーム油使用割合(2021年実績)を約36%と公表しています。しかし、日清食品が採用しているRSPOの「マスバランス」方式では認証農園で生産されたパーム油と、生産地の追跡ができない問題あるパーム油が混合され、森林破壊や人権侵害への対処は困難です。2022年に開示されたパーム油を調達する搾油工場リストの情報には、RANの調査で発覚した違法開発地域からのパーム油森林破壊を引き起こす企業からのパーム油が納入されていた搾油工場が含まれており、問題のあるパーム油への対応システムが不十分であることが判明しました。

本署名では、日清食品に目標年の前倒しと、自社サプライチェーン(供給網)から問題あるパーム油を排除するための実施計画策定および公表などを求めます。

【署名について】

本署名は署名サイト「change.org」で展開し、日清食品ホールディングス安藤宏基取締役社長 CEOとアメリカ日清 マイケル・プライス社長に以下4点を要望しています。

1. グループ全体で自社サプライチェーン(供給網)から問題あるパーム油を確実に排除するために、2030年から大幅に前倒した達成期限を持った拘束力のある実施計画を直ちに策定し、発表してください。

2. パーム油のサプライヤーを全て情報開示すること。

3. パーム油のサプライヤーが方針を遵守しているかをモニタリングし、独立検証できる新たな仕組みを構築することによって、方針実施状況を示すこと。

4. パーム油を含む全ての森林リスク産品を対象とするグループ全体の調達方針において、森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止(NDPE)方針がサプライヤーへの要求事項となることを明記する。

RAN 日本代表 川上豊幸は「2030年度という目標年は、経営陣の危機感の無さや問題対処への意思が希薄であることを露呈しているようです。日清食品が今後7年間も環境・社会面での配慮の確認が不十分なパーム油調達を続ければ、サプライチェーンで発生している気候危機や生物多様性の損失、労働権および土地権の深刻な人権侵害が今後も続き、対応を先送りすることになります。『食』を通じて楽しみや喜びを提供し、世界の人々(=地球)に貢献するEarth Food Createrを目指すグローバルカンパニーの目標とは思えず、多くの消費者の期待を裏切ってしまうのではないでしょうか」と指摘しました。

【背景:日清食品のパーム油調達における動き】

  • 日清食品は2020年8月にパーム油調達方針を改定し、「森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ」(NDPE:No Deforestation,No Peat,No Exploitation)の支持を表明しました注3)。改定方針には、責任あるパーム油生産に欠かせない国際基準である「NDPE」に沿った項目が含まれ、森林破壊や森林火災、そして炭素を豊富に含む泥炭地開発の禁止、また先住民族および地域住民の権利尊重と土地権侵害の禁止が明記されました。
  • 方針強化の背景には、高まる消費者の懸念があります。2019年、RANはインドネシアで現地調査を行い、日清食品を含む大手消費財企業が、スマトラ島の貴重な熱帯低地林「ルーセル・エコシステム」で熱帯林および泥炭地破壊を引き起こしている企業からパーム油を調達している可能性を明らかにしました(注4)。2022年、RANは再度、現地調査を行い、ルーセル・エコシステムの保護地域を違法に農園開発した地域からのパーム油が納入された搾油工場(注5)や、森林破壊を引き起こしている企業から調達している搾油工場(注6)が、日清食品を含む大手消費財企業のミルリスト(調達先搾油工場リスト)に含まれていることを示しました。
  • RANは2020年4月、「キープ・フォレスト・スタンティング」キャンペーン注7)を開始し、自社サプライチェーンでの森林破壊および人権侵害への対処において、国際的に影響力のある消費財企業として10社を挙げました。日清食品はその1社ですが、キャンペーン開始時にNDPE基準を採用していなかった唯一の消費財企業でした。日清食品のNDPE方針を支持するとの表明は大きな一歩ですが、高い保護価値(HCV)地域や高炭素貯留林(HCS)の転換禁止などの森林破壊禁止規定、泥炭地開発禁止、先住民族のFPIC(自由意思による、事前の、十分な情報に基づ同意)の権利などの項目は、日清食品グループ全体の調達方針には明記されていません。企業グループとしての調達方針強化と、方針達成に向けた実施計画の策定および野心的な達成目標年の公表が必須です。

注1)署名URL: https://chng.it/BScfG5rB

 英語版署名「NISSIN’S TOP RAMEN COMES DEAD LAST」

注2)日清食品ホールディングス「地球のために、未来のために。環境戦略『EARTH FOOD CHALLENGE 2030』始動!」(2020年6月9日)より抜粋

「森林破壊の防止、生物多様性の保全、および農園労働者の人権に配慮された持続可能なパーム油の調達を進めます。2020年3月現在、グループ全体における「RSPO (持続可能なパーム油のための円卓会議)」認証パーム油の調達比率は約20%です。2030年度には、RSPO認証パーム油の調達に加え、独自アセスメントにより持続可能であると判断できるパーム油のみを調達することを目指します」

注3)日清食品ホールディングス「持続可能な調達:持続可能なパーム油調達コミットメント」より抜粋:

日清食品グループは、NDPE (No Deforestation,No Peat,No Exploitation=森林破壊ゼロ、泥炭地開発ゼロ、搾取ゼロ) を支持し、取引先等のステークホルダーの協力を得て、パーム原産地の環境と労働者の人権に配慮して生産されたことが確認できるパーム油を調達します。
 ・保全価値の高い (HCV: High Conservation Value) 地域および炭素貯蔵力の高い (HCS: High Carbon Stock) 森林の保護、森林破壊ゼロ
 ・深さに関わらない泥炭地の新たな開発禁止
 ・植栽や土地造成、その他開発のための火入れ禁止
 ・先住民族・地域住民の権利尊重・土地権侵害の禁止
 ・RSPO (持続可能なパーム油のための円卓会議) が定める「原則と基準」の遵守
 ・農園まで含めたトレーサビリティの確認

注4)RANプレスリリース「三菱UFJ、高リスクのパーム油企業へ資金提供 〜違法パーム油およびインドネシア泥炭林破壊とのつながりが明らかに〜」 (2019/10/18)

注5) RANプレスリリース「新調査報告書『炭素爆弾スキャンダル』発表〜日清食品など大手消費財企業、インドネシア違法パーム油との関連性が継続〜」(2022/9/22)

注6) RAN, Notorious Rainforest Destroyer Caught Taking Palm Oil To Global Market (2022/12/08)

注7)RANプレスリリース「2020新キャンペーン開始!「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」〜17社の消費財ブランド&銀行を対象〜 (2020/4/1)

団体紹介

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。 

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
川上豊幸  Email:japan@ran.org

タグ: パーム油, 日清, 東京五輪, 気候変動

プレスリリース:新報告書『ボルネオ島 最後の森林を守る:地域コミュニティ抵抗の事例』発表 (2023/2/15)

インドネシア、森林減少率低下するも熱帯林の危機は継続

  • ●ボルネオ島の熱帯林の多くは企業の事業管理地に残り、伐採や農園開発のリスクにある。「ロング・イスン」先住民族コミュニティの慣習林は伐採業者の管理地に重なることから10年以上も対立が続いている。
  • ●ロング・イスン村で操業する伐採業社は 、複合企業グループ「ハリタ・グループ」のコントロール下にある。同グループはP&G、モンデリーズ、日清食品など消費財企業の調達先である。
  • ●RANは消費財企業に対して、自社調達方針の実施を求めると同時に、ハリタ・グループに「森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」(NDPE)方針を全事業で遵守させるよう求めている。


写真:先住民族「ロング・イスン」コミュニティの人々 ©️Khairul Abdi / RAN

米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部サンフランシスコ、以下、RAN)は14日、新報告書「ボルネオ島 最後の森林を守る:地域コミュニティの闘い」を発表し(注1)インドネシアの森林減少率が過去数年で減少しているにもかかわらず、同国に残る重要な熱帯林の多くは依然として危機的状況にあると警鐘を鳴らしました。熱帯林の多くは企業のコンセッション(事業管理地)にあり、伐採や植林地および農園への転換のリスクに常にさらされています。本報告書は、地域および先住民族コミュニティによる森林保護・管理、そして産業開発への人々の抵抗がボルネオ島最後の熱帯林を守る最善の方法の一つであると結論づけています。

本報告書は「ハート・オブ・ボルネオ」として知られる北カリマンタン州と東カリマンタン州の重要な地域に焦点を当てています。先住民族コミュニティ「ロング・イスン村」の人々が、10年以上にわたって彼らの土地での伐採事業に抵抗し、土地権の法的承認を求めてきた力強い闘いを説明しています。また人々がこれまで直面してきた激しい脅迫や不当逮捕についても記載しています。

地図:ロング・イスン村は東カリマンタン州マハカムウル県(マハカム川上流)に位置する

ロング・イスンの村民で「ロング・イスン森林管理組織」の代表であるテクワン・アジャ(通称テクワン)は「私は、森や土地、水、そして尊厳を含め『生命の源』を守ろうとしたことで109日間も逮捕されました。その後、私は今も容疑者に指定され、警察への出頭が求められています」と訴えました。テクワンは地元警察に罪状もなく投獄され、犯罪者にされました。ロング・イスンの人々は、 これはコミュニティと対立する伐採企業が警察の力を借りて、コミュニティに力ずくで伐採事業を承認させようと仕組んだ方策だと考えています。

大手消費財企業の多くは重要な森林保護方針である「森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」(NDPE、注2)を採用する一方で、ロング・イスンの事例に関わりがあります。プロクター&ギャンブルとモンデリーズなどの消費財企業は、有力な複合企業グループのハリタ・グループと取引を続けています。日本企業では日清食品がハリタグループのコントロール下にある搾油工場からパーム油を調達していることを開示しています(注3)。また伊藤忠建材の取引先にはハリタグループの合板工場も含まれます(注4)

ハリタ・グループはインドネシアのパーム油および木材部門で最も影響力のある企業グループの一つです。ロング・イスンの森林開発の権利を有する伐採企業の2社は、同グループのコントロール下にあります。ハリタ・グループがロング・イスン村の慣習権を侵害し、コミュニティ慣習地からの撤退を拒否したことから、国際的な紙・木材認証制度の一つである森林管理協議会(FSC)に正式な苦情が申し立てられました。その後2017年にFSC認証の基準に対する違反が確認されたとして、FSCはロング・イスンの土地紛争に関連してハリタグループ企業1社の認証を取り消しました(注5)。2023年2月には、別のハリタグループの木材企業の認証が一時停止となり(FSC要求事項への重大な不適合のため)、FSCはハリタグループとの上記苦情に対応するために行っていた調停手続きの停止を発表しました(注6)


写真:バレンタインデーに合わせて行われたモンデリーズ本社前でのアピール行動、米国シカゴ、2023年2月14日 ©️Juliste G / RAN

RAN 森林キャンペーン・ディレクターのダニエル・カリロは「地球規模で、私たちは止めることのできない気候危機の瀬戸際にいます。これ以上の森林破壊はさらなる瀬戸際へと追い込むだけです。一方で、コミュニティの人々は私たちみんなのために貴重な熱帯林を守ろうとし、高まる脅迫と報復に直面しています。このような状況には今すぐ歯止めをかける必要があります。多国籍消費財企業には、今の状況を変える力があります」と強調しました。

RANはプロクター&ギャンブル、モンデリーズ、日清食品、そして本事例と関わりのある消費財企業に自社の調達方針を実行し、調達先であるハリタ・グループに、ロング・イスンの慣習林と重なる地域での木材事業案を含め、グループの全事業でのNDPE方針遵守を求めるよう要請しています 。

「ハート・オブ・ボルネオ」地域は、ボルネオ島の熱帯林の大部分が集中する北カリマンタン州と東カリマンタン州にあります。両州の森林の3分の2近くが今も企業の事業管理地内にあることから、この地域への脅威は高まっています。インドネシアの首都移転計画も間近に迫り、熱帯林への脅威をさらに大きくしています。

ハリタグループは、上記の件に関する申し立てを否定しました。同グループの返答はこちらに掲載しています。
RAN.org/publications/long-isun/

 

注1)報告書「ボルネオ島 最後の森林を守る:地域コミュニティ抵抗の事例」
日本語版
英語版

ウェブサイト「ボルネオ島の消えゆく森を守る 〜先住民族「ロング・イスン」の闘い〜」

モンデリーズ社への署名(英語)

注2)パーム油や紙パルプなど森林破壊を引き起こす産品事業の生産・投融資に欠かせない国際基準。NDPEはNo Deforestation、No Peat、No Exploitationの略。

注3)日清食品「ミルリスト」(2021年版)2023年2月閲覧
https://www.nissin.com/jp/sustainability/environment/business/procurement/pdf/PalmOilMills_2021.pdf

注4)PT. Titra Mahakam Resources Tbk. “PT. Tirta Mahakam Resources Tbk. Financial Statements.” IDN Financials. September 2022.
https://idnfinancials.s3-ap-southeast-1.amazonaws.com/financial-statements/TIRT/2022/3Q_2022_TIRT_Tirta+Mahakam+Resources+Tbk.pdf

注5)参考:Forests People Programme. “FSC to investigate renewed complaints of human rights violations by Roda Mas Group”. Forests People Programme June 2020.
https://www.forestpeoples.org/en/timber-pulpwood-and-fsc/press-release/2020/fsc-investigate-renewed-complaints-human-rights

注6)FSCジャパン「FSCはHaritaグループとの調停の中止を決定しました」、2023年2月9日
https://jp.fsc.org/jp-ja/newsfeed/fsc-will-not-pursue-mediation-with-harita-group

 

参考

RAN「キープ・フォレスト・スタンディング〜森と森の民の人権を守ろう」キャンペーン関連

プレスリリース:新報告書「森林&人権方針ランキング2022」発表〜日清食品、三菱UFJは低評価 〜 (2022/6/15)
https://japan.ran.org/?p=2011

プレスリリース:新報告書「森林フットプリント評価 2021」発表〜インドネシア・ボルネオ島の森林と地域コミュニティへの影響について、大手消費財企業10社の開示状況を評価〜(2021/10/22)
https://japan.ran.org/?p=1919

 

※更新:「ボルネオ島 最後の森林を守る:地域コミュニティ抵抗の事例」日本語版を追加しました(2023年3月20日)。

 

団体紹介
レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。
https://japan.ran.org

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
コミュニケーション:関本  Email: yuki.sekimoto@ran.org

プレスリリース:新調査報告書『炭素爆弾スキャンダル』発表 〜日清食品など大手消費財企業、インドネシア違法パーム油との関連性が継続〜 (2022/9/22)

スマトラ島「ルーセル・エコシステム」の野生生物保護区で追加調査

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は19日(現地時間)、ニューヨーク市で開催中の「気候週間」に合わせ、新報告書『炭素爆弾スキャンダル:パーム油で気候危機を起こす消費財企業』(注1)を発表しました。インドネシアでの現地調査などの結果をまとめ、大手消費財企業は森林保護方針があるにもかかわらず、保護区内の泥炭林を破壊して違法栽培されたパーム油との関連性が依然として続いていることを明らかにしました。

写真:違法アブラヤシ農園のために破壊された泥炭林、インドネシア アチェ州、2018年撮影

RANは今年5月、2019年に続いて(注2)インドネシアのスマトラ島で現地調査を行い、国の保護区である「ラワ・シンキル野生生物保護区」の泥炭地でパーム油が新たに違法生産されている実態を突き止めました。本報告書では2件の違法農園に焦点を当てて追跡調査を行い、大手消費財企業10社のサプライチェーン調査も実施しました。

その結果、日清食品、プロクター&ギャンブル(P&G)、ネスレ、ユニリーバなどの調達先が、同保護区内からの違法パーム油を購入していたことが判明しました。また、花王は違法パーム油の調達を継続している企業と取引を続けていることも分かりました。以上の結果から、問題のあるパーム油がグローバルサプライチェーンに依然として流入している現状が明らかになりました。同保護区は世界的に貴重な熱帯低地林「ルーセル ・エコシステム」の南部に位置します。

【調査概要】

■調査時期:2022年5月

■調査地域:インドネシア・スマトラ島の「ルーセル・エコシステム」内、国の保護区「ラワ・シンキル野生生物保護区」および周辺

■調査方法:現地調査、衛星画像分析(違法農園および森林・泥炭林減少の確認)、サプライチェーン追跡調査(アブラヤシ農園から搾油工場を追跡。製油企業・消費財企業の調達先リストを分析)

■調査対象消費財企業10社:日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース(注3)

■事例概要

事例1)南アチェ州の実業家 Mr. Mahmudin氏が管理する違法農園(写真)

●違法農園で収穫されたアブラヤシ果房が仲介業者を通して、同保護区近くにあるパーム油搾油工場2社、PT. Runding Putra Persada (PT. RPP)とPT. Global Sawit Semesta(PT. GSS)に購入された領収書を記録。

●消費財企業7社(コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、ネスレ、ペプシコ、P&G、ユニリーバ)の調達先搾油工場一覧に、上記2工場の記載が確認された。

●PT. GSSは、2019年の調査でも違法パーム油の購入が確認されている。しかし花王の合弁会社かつ調達先であるパーム油企業であるアピカル(ロイヤル・ゴールデン・イーグル・グループ)は、同工場との取引を継続している(注4)

事例2)アチェ州の女性実業家 Ibu Nasti氏が管理する違法農園(11ヘクタール、東京ドーム2.3個分。以下の地図を参照)

●収穫されたアブラヤシ果房が仲介業者を通して、同保護区近くにあるパーム油搾油工場のPT. Bangun Sempurna Lestari(PT. BSL)に購入された領収書を記録。

●消費財企業6社(日清食品、P&G、モンデリーズ、ネスレ、ペプシコ、ユニリーバの調達先搾油工場一覧(注5)に、PT. BSLの記載が確認された。

●PT. BSLで搾油されたパーム原油は、北スマトラ州ベラワン港に製油所を持つパーム油大手ムシムマス社に直接供給された。同社は米国、ヨーロッパ、日本、中国など世界中にパーム油を輸出している。

不二製油の搾油工場一覧には事例1と2で問題となっている搾油工場3社が記載されていることから、違法パーム油を調達しているといえる。

図:Ibu Nasti氏の農園地図。違法に森林が伐採・排水された農園(●)が保護区内(紫網掛け)に位置していることがわかる。収穫されたアブラヤシ果房は集積場所(水色●)に運ばれ、その後、搾油工場へ供給される

 

RAN日本代表の川上豊幸は「ルーセル・エコシステムは泥炭地を含む熱帯低地林で、いわば大きな炭素の貯蔵庫です。また、絶滅危惧種のスマトラオランウータンとスマトラゾウを絶滅から救う最後の砦でもあります。ラワ・シンキル野生生物保護区をパーム油のために破壊し、違法なアブラヤシ生産を見過ごすことは『炭素爆弾』に火をつけるようなものです」と警鐘を鳴らしました。事例2で、違法パーム油との関連が指摘された日清食品のウェブサイトには以下の点が明記されています(注6)

・「国内の油脂メーカーの調達先である一次精製工場やその先の搾油工場で、現地の法律に違反した行為が行われていないことを油脂メーカーとともに確認しています」

・「持続可能であると判断できるパーム油調達の比率を2030年度までにグループ全体で100%」にする

川上は「今回の調査で、日清食品が調達する搾油工場の一つに違法なパーム油が調達されていたことが判明しました。日清食品はこれを機に、農園までのトレーサビリティ確認、サプライヤーの厳格なリスク評価やモニタリング、『森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止(NDPE)方針』の遵守について、直ちに尽力する必要があります」と強調しました。RANは、気候変動と生物多様性保護は喫緊の課題であることから、同社に持続可能なパーム油調達100%の目標の前倒しを求め、オンライン署名「日清さん、2030年まで、問題あるパーム油を使い続けないで!」を2020年から実施しています(注7)

本報告書は、ニューヨーク市で開催中の「気候週間」と、22日開催のコンシューマーグッズフォーラム(CGF)会合に合わせて発表されました。『炭素爆弾スキャンダル』という題名は、炭素を多く含む泥炭林が伐採および排水されると長期にわたって膨大な量の二酸化炭素を排出することから「炭素爆弾」という呼び名があることに因んでいます。上記消費財企業はCGF会員企業であり、森林破壊禁止や、森林を回復軌道に乗せるための「フォレストポジティブ」を公約していますが、問題のあるパーム油との関係を断ち切れていません。RANは消費財企業に対して、問題企業との取引停止を強く求めています(注8)

 

「ルーセル・エコシステム」、「シンキル・ベンクン地帯」について

シンキル・ベンクン地帯は、ルーセル・エコシステムの南部に位置する、生物多様性の世界的なホットスポットです。地中深くに炭素を豊富に含む泥炭地であることから、貴重で効果的かつ自然の炭素吸収源として世界でも重要な場所です。一帯にはラワ・シンキル野生生物保護区、シンキル泥炭地、クルット泥炭地、そして近接する熱帯低地林が含まれます。この地帯は絶滅危惧種のスマトラゾウ、サイ、トラの重要な生息地であり、世界で最も優先して保全されるべき場所の一つです。一帯はオランウータンの生息密度が世界で最も高く「オランウータンの首都」とも呼ばれてきました。泥炭林は一度伐採され、排水されると、泥炭土壌は「炭素爆弾」となり、何年にもわたって膨大な量の二酸化炭素を排出します(注9)。そのため、本報告書で示されている泥炭地の破壊は、生態系、そして気候変動においても重大なリスクです。

参考「ルーセル・エコシステムをまもる

*詳細は報告書(英語)をご参照ください。また、高解像度写真、ドローン映像、現地調査およびサプライチェーン調査による証拠をご要望の際はご連絡ください。

 

注1)RAN報告書(英語)『炭素爆弾スキャンダル:パーム油で気候危機を引き起こす消費財企業』(Carbon Bomb Scandals: Big Brands Driving Clomate Disaster for Palm Oil)
https://www.ran.org/wp-content/uploads/2022/09/Rainforest-Action-Network-Leuser-Report-FINAL-WEB.pdf

注2)RANプレスリリース「三菱UFJ、高リスクのパーム油企業へ資金提供 〜違法パーム油およびインドネシア泥炭林破壊とのつながりが明らかに〜」、 2019年10月18日
https://japan.ran.org/?p=1522

注3)消費財企業10社は、RANが2020年4月から展開する「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」キャンペーンの対象企業である。熱帯林破壊と人権侵害を助長している最も影響力のある消費財企業・銀行17社に行動を起こすよう要求している。
https://japan.ran.org/?p=2011

注4)花王の搾油工場一覧(ミルリスト、2022年9月22日最終閲覧)、各社の一覧は報告書で確認のこと。

2021年版(報告書で使用)
https://www.kao.com/content/dam/sites/kao/www-kao-com/jp/ja/corporate/sustainability/pdf/progress-2020-001.pdf

2022年上半期
https://www.kao.com/content/dam/sites/kao/www-kao-com/jp/ja/corporate/sustainability/pdf/progress-2022-001.pdf

注5)日清食品の搾油工場一覧(2022年9月22日最終閲覧)、同上。
https://www.nissin.com/jp/sustainability/environment/business/procurement/pdf/PalmOilMills_2021.pdf

注6)日清食品「持続可能な調達」
https://www.nissin.com/jp/sustainability/environment/business/procurement/

注7)RANプレスリリース:日清食品に新署名開始「2030年まで、問題あるパーム油を使い続けないで!」(2020/11/13)
https://japan.ran.org/?p=1730

注8)RANは、今回の報告書で違法パーム油との関連性が確認された消費財企業10社に対し、透明性があり検証可能な森林および泥炭地のモニタリングシステム、パーム油サプライチェーンにおけるトレーサビリティ管理システム、そして「森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」(NDPE:No Deforestation, No Peatland and No Exploitation)遵守システムが確立されるまでは問題ある供給業者からの調達を即時停止することを求めている。

注9)熱帯泥炭林が地面に貯蔵している炭素は 1ヘクタール当たり約2600 炭素トン(t-C)である。2015年のインドネシアでの大規模泥炭地火災は、米国経済全体の合計よりも多くの二酸化炭素を大気中に放出したが、その火災の理由は主にアブラヤシ農園の開発とパルプ材植林地である。シンキル・ベンクン地帯のシンキルとクルットの泥炭地で火災が発生した場合、同地域の二酸化炭素の排出量だけで、インドネシアの年間総排出量の最大で7%に相当すると推定されている。そうした場合、パリ協定の約束を果たす同国の実行力を損なう可能性がある。

※出典:RAN「The Last of the Leuser Lowlands」(2019年)、「森林と金融調査レポート:投資家には責任がある」(2017年)
http://www.ran.org/wp-content/uploads/2019/09/Leuser_Watch_Singkil-Bengkung_2019.pdf

http://japan.ran.org/wp-content/uploads/2017/06/RAN_Every_Investor_Has_A_Responsibility_June_2017_JP.pdf

 

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

プレスリリース:新報告書「森林&人権方針ランキング2022」発表〜日清食品、三菱UFJは低評価 〜 (2022/6/15)

「森林破壊禁止」を約束するも、森林破壊と人権侵害を阻止できず
〜グローバル消費財企業・銀行17社の森林及び人権方針を評価〜

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、本日15日、新報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林&人権方針ランキング2022」(注1)を発表しました。

熱帯林地域で森林破壊のリスクが高い産品に関与している消費財企業と銀行の17社を対象に(注2)、各社の方針と実施計画を森林と人権の二分野で評価・分析した結果、自社サプライチェーンおよび投融資がもたらす森林破壊と土地収奪、地域住民及び先住民族への暴力について適切な措置を講じている企業と銀行は一社もなく、森林破壊と人権侵害を阻止できていないと結論づけました。ランキングではユニリーバが「C」評価で最も高く、日清食品ホールディングス三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は5段階評価で最低ランクの「不可」でした。

RAN「森林と人権方針ランキング2022」〜森林破壊と人権侵害をもたらす企業と銀行〜

本ランキングは、原材料調達と資金提供を通じて森林破壊のリスクが高いサプライチェーンに関与している消費財企業と銀行で、影響力の大きい消費財企業10社と銀行7社を対象に、各社の方針について森林と人権分野の10項目を20点満点で評価しています。通称「森林リスク産品」と呼ばれる熱帯林産品はパーム油、紙パルプ、牛肉、大豆、カカオ、木材製品などです。17社には日清食品、花王、MUFGの日本企業3社が含まれます。合計得点に合わせてA(18〜20点)、B(15〜17点)、C(12〜14点)、D(5〜11点)、不可(0〜4点)で評価しました。

最も取り組みが遅れている「不可」と評価された銀行と消費財企業は以下の8社です。 

●消費財企業: 日清食品(日本)、モンデリーズ、プロクター&ギャンブル(P&G)(ともに米国)

●銀行: BNI(インドネシア)、CIMB(マレーシア)、ICBC(中国)、JPモルガン・チェース(米国)、MUFG(日本)

【森林&人権方針ランキング2022】概要

■調査期間:2022年4月~6月
■調査対象者:大手消費財企業(10社):日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース)、大手銀行(7社):MUFG、JPモルガン・チェース、中国工商銀行(ICBC)、DBS、バンクネガラインドネシア(BNI)、CIMB、ABNアムロ
■調査方法:各社の環境及び人権に関する方針を調査・分析(ウェブサイトなどで公開されている最新版)

■主な森林・人権方針の評価項目(全10項目、各2点)
*2点:方針あり/ 全体に採用、1点:一部に採用、0点:方針・計画なし
●「森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」(NDPE)採用状況:パーム油や紙パルプなど森林破壊を引き起こす産品事業の生産・投融資に欠かせない国際基準(注3)
●NDPE方針遵守の証明・独立検証
●「森林フットプリント」開示:サプライチェーンや投融資先の事業が影響を与える森林の総面積(注4)
●「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)原則」の実施:先住民族および地域コミュニティの権利尊重(注5)
●暴力や脅迫への「ゼロトレランス」(不容認)方針の有無、など

■全体の評価・傾向

●消費財企業
「合格点」といえる「C」と評価されたのはユニリーバのみでした。この一年、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、花王の各社方針では改善が見られましたが、依然として遅れを取っています。ユニリーバは森林リスク産品のサプライチェーン全体がもたらす影響に対処するために、信頼できる方針を採用している唯一の消費財企業で、森林フットプリント(インドネシア・スマトラ島北部に限定)も公表しています。しかし、グローバルサプライチェーン全体の森林フットプリントの開示を約束している企業は、キャンペーン対象外のネスレのみです。

●銀行
7行全てが「D」または「不可」でした。「不可」と評価されたMUFGJPモルガン・チェースはこの一年でNDPEを採用しましたが、両社とも適用範囲が限定的なことから方針に抜け穴が残っています。同じく「不可」だったマレーシアのCIMBは、NDPE方針の採用を発表したものの、適用範囲や実施時期について言及していないことからこの項目で得点を得られませんでした。RANは、消費財企業と銀行が森林破壊や人権侵害を撲滅すると主張しても、NDPE方針の遵守を保証するために信頼でき、かつ独立した検証メカニズムがなければ信用に値しないと警告しています。

■日本企業の評価

 ●総合点は日清食品MUFGが不可(ともに4点)で、花王はD(6点)でした。
 ●3社ともNDPE方針を採用するも、適用の範囲については評価が分かれました。花王は全分野の供給業者について企業グループ全体で適用対象としたことから1点の評価を得ました。しかし日清食品MUFGは取引先および融資先のグループ全体を対象とせず、パーム油事業のみに適用するなど限定的であることから得点はゼロ点でした。
 ●「森林フットプリントの開示」については、日清食品花王が実施を表明したのみで、開示そのものは遅れていることから得点は1点でした。
 ●昨年に続き「FPIC原則の実施」、「NDPE方針遵守の証明」については各社とも得点がありませんでした。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表の川上豊幸は「花王は方針を強化し、昨年の『不可』から『D』評価にランクを上げました。改善の要素として、取引先に企業グループ全体での『森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止』(NDPE)の方針採用を義務付けることとなった点があげられます。これは重要な進展です。一方、日清食品とMUFGは『不可』評価のままでした。大きな理由の一つとして、両社ともNDPEの適用範囲が限定的なことがあげられます。 例えばMUFGは、融資先の企業グループ全体にNDPE方針を適用していなく、かつ、パーム油の農園事業に限定しています。MUFGは、融資の使途が『農園事業ではない』として、持続可能なパーム油の認証機関であるRSPOから除名されたインドネシアのインドフード社への融資を継続しています。MUFGは企業グループとしての評価と方針遵守の確認、パルプ産業を含めた他セクターへのNDPE方針の拡大が課題です」と指摘しました。

「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」キャンペーンは2020年4月の開始以来、評価分析を毎年実施し、今年で3回目の発表となります。RANはさらなる森林破壊と人権侵害を防ぐために、森林破壊と人権侵害を行う大手アグリビジネス企業と林業企業に対して大きな影響力をもつ消費財企業と銀行に実質的な行動を早急に取るよう要求を続けます。

 

「森林&人権方針ランキング2022」説明資料

【日本企業各社の点数と評価概要、改善点】

日清食品(不可:4点、昨年2点):グループ全体の調達方針に「NDPEを支持する」と記載しているが、消費財企業10社ではP&G、モンデリーズと並んで「不可」評価だった。改善のためには、グループ調達方針に供給業者が遵守すべきNDPE項目を明記し、供給業者にNDPE採用を義務付ける必要がある。今年5月、パーム油の搾油工場リストを公開したことは一歩前進といえるが、花王や欧米の大手消費財企業はすでに公開している。森林破壊のモニタリングやデューデリジェンスが開示された。また森林フットプリントの開示についても「順次導入」すると公表したが、実施時期の言及はなかった。こういった情報開示を通して、供給業者および生産地の現状把握と問題対応のための体制強化を進める必要がある。なお、持続可能なパーム油100%調達を2030年までに達成するという目標は大幅な前倒しが必要。

 

花王(D:6点、昨年3点):今年5月、「2022年の活動 花王の持続可能な調達への考え方」で、全ての森林リスクコモディティのサプライヤーとそのグループ企業に対して、NDPE方針採用の義務化を明記した。また、サプライチェーンにおける人権擁護者に対する暴力や不当告発、脅迫などを容認しないことを明記した。また、森林フットプリントの2023年実施に向けて準備を進めていることも公表した。今後はさらなる方針強化とともに、これら方針遵守のためにモニタリング、FPIC確認を含めた遵守の検証、問題事例への対処が求められる。

 

MUFG(不可:4点、昨年4点)今年4月の環境・社会方針の改定では、パーム油事業へのファイナンスをRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)認証取得企業に限定した。前年まではインドネシア政府とマレーシア政府の認証も認めていたことから、より厳格化された。投融資先への「NDPE遵守の公表」の要求は2021年4月の方針改定で追加されたがパーム油の農園企業に限定され、パーム油購入企業や、紙パルプや大豆など他の森林リスク産品セクターには適用されなかった。この点は、今年の方針改定で見直されることはなかった。MUFGはパーム油セクターへの融資・引受額が東南アジア以外の地域に本社を置く銀行では最大で、紙パルプ産業にも多額の融資を提供している。今後、NDPE方針の適用拡大と、投融資先にNDPE方針遵守のための独立検証を求めていくことが課題になる。

 

【17社の消費財企業・銀行の影響力について】

評価対象となった消費財企業と銀行の多くは「森林破壊禁止」と先住民族の権利及び人権尊重の達成のために、特に国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)をきっかけに、様々なコミットメントと方針を取り入れてきた。

しかし「森林と金融データ」によると、パリ協定採択以降、評価対象銀行は合計で、インドネシア、コンゴ盆地、アマゾンの三大熱帯林地域で操業する森林リスク産品企業に少なくとも225億米ドルを提供した。最も多額の資金提供をしたのはJPモルガン・チェースで69億米ドル、次いでMUFGが40億米ドルだった。同様に消費財企業各社は、地域コミュニティの慣習上の権利を侵害して森林破壊を起こしている生産者から調達を続けている供給業者との取引を停止していない

評価対象企業・銀行で、顧客や供給業者、投融資先企業に「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)原則」の実施証明を要求している企業はない。現時点では、先住民族と地域コミュニティが自らの慣習地での開発を拒否する権利が尊重されていることを確認するための手続きを公表している銀行と消費財企業はない。

【レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表の川上豊幸コメント】

「森林保護は気候と生物多様性の危機を回避する、最善かつ自然の解決策です。今、かけがえのない熱帯林を守るために抵抗している地域住民や先住民族が激しい報復に直面しています。一握りの消費財企業と銀行は熱帯林破壊、土地収奪、人権擁護者の殺害に大きな影響力があるにもかかわらず、それを止めるための取り組みは遅れています。企業の活動が森林や地域コミュニティに与える影響について責任を転嫁し続ける時間は、世界にはもう残されていません。やるべき課題はたくさん残されています」

注1)新報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林&人権方針ランキング2022」(日本語版)
方法論
さらなる詳細は英語版を参照ください。

注2)消費財企業(10社):日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース

銀行(7社):MUFG、JPモルガン・チェース、中国工商銀行(ICBC)、DBS、バンクネガラインドネシア(BNI)、CIMB、ABNアムロ

「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」は、RANが2020年4月から展開しているキャンペーンです。熱帯林破壊と人権侵害を助長している最も影響力のある上記の消費財企業・銀行17社に実際の行動を起こすよう要求しています。注3)〜注5)の参考資料としてもご参照ください。

注3)NDPEはNo Deforestation、No Peat、No Exploitationの略。森林減少や劣化に対しての保護(炭素貯留力の高い<High Carbon Stock:HSC>森林の保護、保護価値の高い<HCV: High Conservation Value>地域の保護)、泥炭地の保護(深さを問わず)、人権尊重、火入れの禁止といった要素を含む方針を公表している企業は「あり」の評価を得る。

注4)「森林フットプリント」とは、森林を犠牲にして生産される「森林リスク産品」の消費財企業の利用や、銀行による資金提供によって影響を与えた森林と泥炭地の総面積をいう(影響を与える可能性がある面積も含む)。消費財企業と銀行の森林フットプリントには、供給業者や投融資先企業が取引期間中に関与した森林および泥炭地の破壊地域、さらに供給業者や投融資先企業全ての森林リスク産品のグローバルサプライチェーンと原料調達地でリスクが残る地域も含まれる。森林および泥炭地が先住民族や地域コミュニティに管理されてきた土地にある場合は、その先住民族と地域コミュニティの権利への影響も含む。

参考:RANプレスリリース「新報告書『森林フットプリント評価 2021』発表〜インドネシア・ボルネオ島の森林と地域コミュニティへの影響について、大手消費財企業10社の開示状況を評価〜」2021年10月22日

注5)「FPIC」(エフピック)とは Free, Prior and Informed Consentの略。先住民族と地域コミュニティが所有・利用してきた慣習地に影響を与える開発に対して、事前に十分な情報を得た上で、自由意志によって同意する、または拒否する権利のことをいう。

注6)「ゼロトレランス・イニシアティブ」ウェブサイト

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RANは、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

※更新
・調査概要として調査期間、調査対象者、調査方法を追記しました(2022年6月17日)

プレスリリース:五輪調達基準違反を東京都に再通報(2021/11/25)

大会主催者は「持続可能性大会後報告書」で熱帯林破壊の事実を認めよ

〜衛星データ新分析、木材供給企業のサプライヤー9社によるインドネシアの貴重な熱帯林の破壊が明らかに〜

レインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、12日、東京2020大会主催者の一つである東京都に、東京五輪での木材使用に調達基準違反の疑いがあるとして、衛星データによる新分析を根拠に、インドネシアの熱帯林破壊について説明責任を求めて再通報しました(注1)。

通報の目的は、熱帯林破壊の明白な証拠を大会主催者に示し、12月に発表が予定されている大会組織委員会の「持続可能性大会後報告書」に(注2)に、熱帯林破壊の事実を記載するよう求めることです。また、調達の失敗を今後の教訓として公的機関や企業の調達方針に生かすことも提言しました。先日閉幕した国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)では、2030年までに森林消失を阻止するという声明に日本も署名しています。

図1:衛星データ(TAN社の例):事業許可地(水色)がオランウータン生息地(斜線)と重なり、五輪への木材供給期間の2016年(紫)と2017年(赤)に森林伐採が起きたことを示している。

 

図2:衛星データ(PSL社の例):事業許可地(水色)が泥炭地(斜線)と重なり、五輪への木材供給期間の2016年(紫)と2017年(赤)に森林伐採が起きたことを示している。

 

本通報は、住友林業、韓国/インドネシア系複合企業のコリンド・グループなどが、東京五輪「持続可能性に配慮した木材の調達基準」(2019年1月の改訂前、注3)に違反した疑いがあるとして、東京都に通報したものです。東京五輪の熱帯材使用については、2018年5月、コリンド社製の非認証型枠合板が東京都の新設した有明アリーナの建設現場で使用されたことがNGOの調査で判明し、住友林業が輸入した製品だったことが明らかになっています(注4)

RANは今回の通報に先立ち、東京都から協議過程で提供された住友林業のサプライヤーリストをもとに、インドネシアでコリンド社に原木を提供しているサプライヤーの事業管理地を衛星データで分析しました。その結果、住友林業が森林認証材ではない合板を供給したとされる2016年と2017年、原木サプライヤー9社の事業管理地における森林減少面積の合計は約7,000ヘクタールにのぼり(参考:山手線内側の面積は約6,300ヘクタール)、同9社のうち数社は絶滅寸前種であるボルネオ・オランウータンの生息地や、泥炭林を含む貴重な熱帯林を皆伐して破壊していたことが明らかになりました(図1と2を参照)。東京五輪の木材調達基準では生態系保全への配慮などが規定されていることから、基準違反の疑いがあります。なおコリンド社については、賄賂、人権侵害、熱帯林破壊など、これまで複数のESG(環境、社会、ガバナンス)問題が指摘されてきました。今年10月にはFSC(森林管理協議会)から関係断絶され、現在、FSC認証は停止されています(注5)

RAN日本代表の川上豊幸は「東京五輪に森林認証も得ていない熱帯木材が使用されたことは、五輪の調達が失敗したことを示す明白な事例です。絶滅寸前種のオランウータンの生息地を皆伐し、大量の温室効果ガスの排出を伴う泥炭地での皆伐から得られた木材は、持続可能性に配慮した木材とは全く言えません。大会主催者は調達の失敗を無かったことにせず、大会後報告書に記録し、今後の教訓として企業や公的機関の調達に生かすべきです。トレーサビリティの確保、そして森林保全や人権尊重についての厳格な独立検証とその情報開示について、調達方針に加えることが必要です」と指摘しました。

東京五輪の持続可能性と多様性をめぐっては、森喜朗前組織委員会会長の辞任や、弁当の大量廃棄など報告書に記録されるべき問題が多発しました。RANは、これらの諸問題と同様に、熱帯材の使用についても報告書に記載されるべきであると再度主張しました(注6)

本通報はまた同日、国際オリンピック委員会(IOC)にも電子メールで送付されました。12日にはIOC理事会が開催され、RANは通報が東京都に受理されるようIOCに協力を依頼しました。RANは類似の通報を2018年11月にも東京都と日本スポーツ振興センター(JSC)に行いました(注7)。JSCが管轄する新国立競技場でも、認証材でないインドネシア製の合板が調達されたことが組織委員会の情報開示で明らかになっています。しかし両機関は、森林の農地等への転換に由来する木材(転換材)について、調達禁止を明記した2019年1月改定前の基準は満たしているという理由で、その通報を却下しました。また、明確な違反の疑いがあるにもかかわらず、「不遵守が確定しなければ処理手続きを開始しない」とし、業務運用基準を逸脱して通報を却下した経緯があります。

川上は「東京都との一連のやりとりでは、通報を抑制しようとする意図が感じられ、苦情処理メカニズムが機能不全に陥っていると言わざるを得ません。同じ基準で運用されている大会組織委員会の通報受付では『助言委員会』(注8)といった独立性に配慮する機能がありますが、東京都のシステムにはなく、中立性や公平性を欠いています。東京都に五輪の持続可能性のレガシーを残す意思があるかどうかは、今回の通報への対応で見極めることができます」と訴えました。

 

写真:有明アリーナの建設現場で2018年5月11日に撮影。コリンド・グループのバリクパパン・フォレスト・インダストリーズ社の 木材であることを示している(右)。詳しくは「守られなかった約束」報告書(8ページ)を参照のこと。

*メディア向け説明資料はこちら

注1)通報の詳細はお問い合わせください。
参考:東京都「東京2020大会持続可能性に配慮した調達コードに係る取組」(閲覧日:2021年11月25日)
https://www.2020games.metro.tokyo.lg.jp/taikaijyunbi/torikumi/tyoutatu/index.html

注2)東京2020組織委員会「持続可能性報告書」(閲覧日:2021年11月25日)
https://www.tokyo2020.jp/ja/games/sustainability/report/index.html

注3)RANを含めた国内外のNGOから指摘を受けた後、組織委員会は2019年1月に木材調達基準を改定し、森林の農地等への転換に由来する木材の調達を明示的に禁止した。具体的には、調達基準2②「中長期的な計画又は方針に基づき管理経営されている森林に由来すること」に、「森林の農地等への転換に由来するものでないこと」が追加された。

以下参考
【改訂前】東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会「持続可能性に配慮した調達コードについて」、2017年4月24日(閲覧日:2021年11月25日)
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/tokyo2020_suishin_honbu/shokubunka/setumeikai/code.pdf

【改定後】同「東京 2020 オリンピック・パラリンピック競技大会 持続可能性に配慮した調達コード(第3版)」(閲覧日:2021年11月25日)
https://www.tokyo2020.jp/image/upload/production/e2aw16fxfxmv8zwuo2rt.pdf

注4)RANプレスリリース「新報告『守られなかった約束』発表 〜東京五輪木材供給企業コリンドの熱帯林破壊、 違法伐採、人権侵害が明るみに〜」、2018年11月12日

注5)FSCジャパン「FSCがコリンドグループ(Korindo Group)との関係断絶を発表しました」(閲覧日:2021年11月25日)
https://jp.fsc.org/jp-ja/newsfeed/fsckakorintokurufukorindo-grouptonoguanxiduanjuewofabiaoshimashita

注6)RANは国内外のNGOとともに「持続可能性報告書」(大会準備、大会前、大会後の3回にわたって公表)に、東南アジアの熱帯林破壊によって得られた木材が大会施設に調達された問題について記載することを求めてきたが、「大会前報告書」(2020年4月公表)および「大会前報告書 追補版」(2021年7月公表)での記述はなく、批判してきた。

参考:RAN声明「東京五輪 大会前報告書は『見せかけのサステナビリティ報告書』〜木材調達の失敗から教訓を学ばず、悪しきレガシー残す〜」2020年4月30日

注7)RANプレスリリース「RANとボルネオオランウータン、東京都とJSCに通報〜新国立など五輪会場の木材、オランウータン生息地に深刻な危害〜」(2018/11/30)

注8)東京2020組織委員会「調達コードに係る通報受付窓口の設置について」(閲覧日:2021年11月25日)
https://www.tokyo2020.jp/ja/games/sustainability/sus-code/index.html?fbclid=IwAR0dGZbc0tG96lI0JQXb4pzrsrW6BrHcPJr42khleeo0tLacvxLCdiaOHf4#11

※参考資料:RANプレスリリース「新報告書『森林フットプリント評価 2021』発表〜インドネシア・ボルネオ島の森林と地域コミュニティへの影響について、大手消費財企業10社の開示状況を評価〜」2021年10月22日

RANは10月、インドネシア・ボルネオ島の北カリマンタン州と東カリマンタン州における「森林フットプリント」を発表した。森林フットプリントとは、パーム油や紙パルプ、木材など森林を破壊する恐れのある産品が影響を及ぼした、またはその可能性がある森林と泥炭地の総面積をいい、両州で825万ヘクタール以上におよぶ。大会主催者は、コリンド社が加工生産し、住友林業が提供した型枠合板の調達を通して、両州での森林減少に加担した可能性がある。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

プレスリリース:新報告書「森林フットプリント評価 2021」発表〜インドネシア・ボルネオ島の森林と地域コミュニティへの影響について、大手消費財企業10社の開示状況を評価〜(2021/10/22)

日清食品、花王、プロクター&ギャンブルら、森林と人権に及ぼす影響を十分に開示せず

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、21日(米国現地時間)、新報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林フットプリント評価2021」(注1)を発表しました。

写真:アブラヤシ農園開発のために伐採された森林、インドネシア東カリマンタン州ベラウ、2018年4月

本報告書は、大手グローバル消費財企業10社を対象に、インドネシア・ボルネオ島の北カリマンタン州と東カリマンタン州における、各社サプライチェーンの「森林フットプリント」(※)を独自に評価したものです。分析の結果、対象企業10社はサプライヤー企業からの原料調達を通じて、同地域で70万ヘクタール(サッカー場175万個分)以上の熱帯林破壊に加担し、さらに825万ヘクタールの森林が危機にあることを明らかにしました。よって10社はいずれも、インドネシアに残る森林と地域コミュニティに及ぼす影響を十分に開示していないと結論づけました。

本報告書は、 英国グラスゴーで31日から始まる国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)を前に発表されました。森林と泥炭地は炭素吸収源として気候の安定のために機能することから、森林保護はこれまで以上に重要になっています。

※「森林フットプリント」とは、パーム油や紙パルプ、木材など森林を破壊する恐れのある産品が影響を及ぼす森林と泥炭地の総面積をいいます。別紙参照。

『森林フットプリント評価2021』概要

  • 対象地域:インドネシア・ボルネオ島の北カリマンタン州、東カリマンタン州。この地域に残る森林の約3分の2が危機的状況にあることから、両州に焦点をあてた。
  • 対象企業(多国籍消費財企業10社):日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース。
  • ●10社は、北カリマンタン州と東カリマンタン州のパーム油や紙パルプ、林業企業からの原料調達を通じて、同地域にある70万ヘクタール(サッカー場175万面分)以上の熱帯林の破壊に加担していることが明らかになった(図1)。
  • ●10社が「森林破壊禁止」の方針をサプライヤー企業に徹底しなかったために過去10年間で失われた森林と泥炭地について詳しく説明し、両州だけで825万ヘクタール以上の重要な熱帯林が危機にあることを示した(図2)。
図1:北カリマンタン州・東カリマンタン州での森林破壊(70万ヘクタール、2009年〜2019年)
凡例:赤(泥炭地)、茶(2009〜2011年)、薄茶(2012〜2014年)、水色(2015〜2017年)、緑(2018〜2019年)
図2:北カリマンタン州・東カリマンタン州で危機にある森林(825万ヘクタール)
凡例:ピンク(泥炭地)、危機にある森林〜青(事業管理地内の劣化していない森林)、水色(事業管理地内の劣化した森林)、赤(開発可能地域の劣化していない森林)、黄(開発可能地域の劣化した森林)、保護されている森林〜緑(劣化していない森林)、黄緑(劣化した森林)
  • 両州で200万ヘクタール以上の森林が、先住民族コミュニティが何世代にもわたって生活し、保護してきた集落や慣習地において残されていることが明らかになった。しかしコミュニティの土地が林業企業や農園企業に割り当てられたことから、多くのコミュニティの森林を保護し管理する権利は尊重されていない(図3)。
図3:北カリマンタン州・東カリマンタン州の慣習地と、住民参加型「社会林業」のために政府が割り当てた地域(出典:Ancestral Domain Registration Agency: BRWA(インドネシアの団体))
凡例:赤(泥炭地)、「社会林業」〜緑(村落林)、オレンジ(住民造林)、水色(コミュニティ林)、BRWAからの慣習地〜青(慣習地)

RAN森林政策ディレクター ジェマ・ティラックは「世界の主な科学者たちは、現在の気候危機を『人類へのコードレッド(非常事態発生を告げる警報)』と呼んでいます。プロクター&ギャンブルのような多国籍消費企業と、倫理的とはいえない取引先のサプライヤー企業は、企業方針の抜け穴や口約束の陰で、森林破壊の悪循環を続けています。地球で最後の手付かずの森林が伐採されている一方、何世代にもわたって森林を維持してきた地域コミュニティからは土地の権利が奪われ、人権が侵害されています」と訴えました。

RAN日本代表 川上豊幸は「今月末からCOP26が始まります。今まさに、森林と泥炭地の破壊を防ぎ、森に住む人々の土地の権利を守るための行動を起こすときです。日清食品や花王などの大手消費財企業は、森林破壊を引き起こす開発事業の拡大という脅威の最前線に立たされている人々の人権や土地権を守るために、今すぐ積極的な役割を果たさなければなりません」と強調しました。

RANは2020年4月から「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」キャンペーンを展開し(注2)、上記10社に対して、自社のグローバルサプライチェーンにおける「森林フットプリント」の開示を求めてきました。「森林フットプリント」という言葉はこれまでも使われてきましたが、RANで用いる場合、消費財企業が商業的な森林伐採や農業の拡大によって、これまでに影響を与えたり、今後与える可能性がある森林と泥炭地の総面積を意味します。また、森林および泥炭地が、先住民族や地域コミュニティに管理されてきた土地にある場合、先住民族と地域コミュニティの権利への影響も含みます。森林フットプリントの開示にあたっては、企業は森林フットプリント全体を説明するために行なった一連の行動を記述し、これ以上の森林破壊と権利侵害を防ぐためにサプライヤー企業に介入する方策を立てるとともに、過去の被害の是正措置を取る必要があります。

これまでユニリーバ、ネスレ(注3)コルゲート・パルモリーブの3社が、インドネシア・スマトラ島北部に限定した森林フットプリントを公表しています。日本企業では、花王は森林フットプリント導入について協議している点を「2021年活動方針」(注4)で開示しています。一方、日清食品からは正式な返答を得られませんでした。

*報告書全文はこちら(英語)。概要および評価への各社回答も掲載されています。 www.ran.org/borneo_forest_footprint

注1)新報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:ボルネオ森林フットプリント評価2021」

注2)「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」は、RANが2020年4月から展開しているキャンペーンです。熱帯林破壊と人権侵害を助長している最も影響力のある上記の消費財企業・銀行17社に実際の行動を起こすよう要求しています。

注3)参考:RAN声明「世界初、ネスレ『森林フットプリント』開示を歓迎〜インドネシア・パーム油サプライチェーンで影響を受ける森林面積を公表〜」(2020/12/11)

注4)花王「2021年の進捗」

※更新:以下の内容を追加しました(2022年1月11日)。
・「キープ・フォレスト・スタンディング:ボルネオ森林フットプリント評価2021」日本語要約版

別紙「森林フットプリントについて

「森林フットプリント」とは?

森林フットプリントとは、消費財企業の森林リスク産品(※)利用や銀行による森林リスク産品への資金提供によって、これまでに影響を与えたり、今後与える可能性がある森林と泥炭地の総面積をいう。消費財企業と銀行の森林フットプリントには、サプライヤー企業や投融資先企業が取引期間中に関与した森林および泥炭地の破壊地域、さらにサプライヤー企業や投融資先企業全ての森林リスク産品のグローバルサプライチェーンと原料調達地でリスクが残る地域も含まれる。上記の森林および泥炭地が、先住民族と地域コミュニティに管理されてきた土地にある場合は、その先住民族と地域コミュニティの権利への影響も含む。

※森林リスク産品:森林破壊の原因の多くはパーム油、紙パルプ、木材製品などの産品生産で、これらの産品は森林を破壊するリスクがあることから「森林リスク産品」と呼ばれている。

リスクにさらされている地域には、供給業者、投融資先企業、またはそれらに原料を供給する独立系企業の管理下にあるプランテーション(大規模農園や植林地)開発区域内の森林と泥炭地、そして上記企業のグローバルサプライチェーンの原料調達(工場、精製所、加工処理施設など の周辺地域)における伐採予定地や農業開発用に割り当てられた地域が含まれる。これらの全てが把握され、公開されている必要がある。

RANは、消費財企業および銀行が森林フットプリントを把握し開示するためには以下のようなステップを提案している。

1.情報開示
・自社サプライチェーンで森林リスク産品を調達している国、金融機関の場合は顧客企業の事業が森林リスク産品関連事業で活動している国を特定し、自社の年次報告書やサステナビリティレポートなどで情報開示する。
・優先すべき森林リスク産品の調達を行っている国・地域を選択する。当該地域で森林リスク産品を生産、加工、取引しているサプライヤー企業を特定し開示する。

2.森林・泥炭地減少へのリスクを調べる
・特定されたサプライヤー企業・企業グループからの調達や、当該企業への投融資によって、これまで影響を与えたり、今後与える可能性のある森林や泥炭地の総面積と位置を把握するために空間分析を行い、地図を作成する。
・作成した地図を自社の年次報告書、サステナビリティレポート、企業ウェブサイトなどで開示する。

3.地域域コミュニティの権利・土地紛争
・選択した調達国・地域でサプライヤー企業や投融資先企業の事業によって影響を受ける森林や泥炭地に居住する、先住民族や地域コミュニティの権利に及ぼす影響に関する情報を調査する。
・情報には先住民族や地域住民が伝統的に所有する森林や泥炭地に関する土地への権利、アクセス、利用および保全への影響を含む。
・これまで影響を与えたり、今後与える可能性のある森林や泥炭地の総面積と位置を把握するために空間分析を行い、地図を作成する。

4.2と3の統合
・森林減少のリスクに関して得た情報と、地域コミュニティへの影響と土地紛争に関するリスクをまとめた、国や地域ごとの「森林フットプリント地図」を完成し、開示する。

 

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
広報:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org