サンフランシスコに本部を持つ米国の環境NGO RAINFOREST ACTION NETWORKの日本代表部です

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共同プレスリリース:環境NGO、東証プライム4企業に対して株主提案〜メガバンク全3社含む日本企業の取締役のコンピテンシーに関する開示を要求〜(2024/4/15)

国際環境NGO マーケット・フォース
特定非営利活動法人 気候ネットワーク
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

国内外の環境NGOとその代表者を含む個人株主は4月15日までに、金融、電力の2業界の4企業(三菱UFJフィナンシャル・グループ、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループ、日本最大の発電会社・JERAの経営に大きく関与する中部電力)に対し、気候変動対策の強化を求める株主提案を提出しました。

我々は関連企業との対話を続けてきましたが、より一層の気候変動対策への注力を期待し、今年は企業の取締役会に焦点を当てた提案を提出しています。提出先企業の取締役会が、気候関連事業リスク及び機会の適切な監督を行う上で必要な能力あるいは人材を備えているか、株主が評価する上で必要な情報開示を求める議案となっています。

株主提案

昨年の株主総会シーズンで日本企業は過去最多の気候変動に関する株主提案に直面しました。近年、このような株主提案は環境NGOに限らず、国外の機関投資家や地方自治体からも提案されています。多様なステークホルダーが高炭素排出企業による気候変動対策の遅れに対して、広範囲に及ぶ悪影響のみならず、企業価値の低下を招くとの危機意識を共有し、行動に移しています。我々が提出した議案も機関投資家に幅広く支持されました。

メガバンク3社については、気候変動への公約及び気候変動リスク管理戦略を踏まえ、これらの実効性を株主が判断できることが重要です。化石燃料セクターの顧客の移行計画とパリ協定1.5℃目標との整合性について、メガバンク各社がどのように評価を行うか、そして当該セクター顧客がパリ協定に沿った信頼性の高い移行計画を作成しなかった場合、新規資金の制限を含む、対応措置をどのようにとるのかの開示を求めています。

提出先企業が抱える問題の要点は以下の通りです(業界ごと)

■メガバンク

「メガバンクの気候変動対策は1.5度に気温上昇を抑えるために科学が明確に求めている行動水準からいまだに大きく乖離しており、このことは企業価値をリスクにさらします。特に、石油・ガスへのファイナンス方針においてアジアの銀行を含む競合他社から大きく遅れをとり、高リスクの事業に資金を提供し続けており、リスク管理能力が問われています。我々の2つの提案が可決されれば、メガバンクの取締役会に気候関連の事業リスクと機会を監督する能力が備わっているか、またメガバンクが重視する高排出企業への移行エンゲージメントの実効性について株主が評価できるようになるでしょう。ひいては、メガバンクの気候変動対策の強化に繋がり、企業価値の維持・向上にも資すると考えます。」

(マーケット・フォース, 日本・エネルギーファイナンスキャンペーン担当, 渡辺瑛莉)

 

「メガバンクは、融資先の移行計画への評価体制が緩い点が問題です。気候危機下で効果的な管理を行うための取締役など経営レベルでの専門性が不足しているように見えます。結果として、1.5℃目標の達成を困難にするような事業計画を持っている企業にも融資が継続されたり、また、銀行としての方針や管理体制が不十分なのではないかと私たちは懸念しています。例えば、LNGセクターでの事業拡大を進める企業への資金提供を継続し、MUFGとみずほは先住民族の人権を侵害している米国のリオ・グランデLNG事業でも重要な役割を果たしています。3行とも、木質バイオマス発電事業や農業など高炭素セクターでの生物由来CO2排出量の集計も行なっていません。メガバンクにはネットゼロにコミットし、脱炭素社会へのシステム移行をサポートする金融機関として、融資先企業や政府の移行計画の妥当性を見極め、対処する管理能力が問われています。」

(レインフォレスト・アクション・ネットワワーク, 日本シニア・アドバイザー, 川上豊幸)

 

■中部電力

今年は特に『第7次エネルギー基本計画』についての検討が行われる重要な年です。中部電力およびJERAは、引き続き、水素・アンモニア、CCSの導入促進および原発再稼働で脱炭素を図るとしていますが、それらによる実質的な排出削減効果と経済性、さらに安全性の保障を鑑みれば、まったく解決策にはなっていません。根本的な方針転換をするには、会社経営を担う人たちに科学的知見を踏まえた判断をしていただく必要があります。真の脱炭素、再エネが主力となる社会に向かっていくには柔軟な考え方と思い切った転換が必要です。」

(気候ネットワーク, プログラム・コーディネーター, 鈴木康子)

 

「採掘から使用を含めた供給網全体で化石燃料からの脱却なしに気温上昇を1.5度以下に抑制することは極めて困難です。中部電力とJERAの移行計画は、1.5度目標のタイムラインに沿っているとは言えず、両社は大きな移行リスクを抱えるとともに気候変動の悪化を招こうとしています。中部電力の取締役会は真正かつ実効性のある移行計画を後押しする監督責任があり、今後厳しい目で見られることになるでしょう。そもそも、取締役会の気候リスク監督能力を株主が評価するための情報が不足しているのが現状です。」

(マーケット・フォース, エネルギーファイナンスアナリスト, 鈴木幸子)

 

株主提案の提出先企業に求める情報開示は、コーポレートガバナンス・コードの求め、及び投資家団体(CA100+やTPI等)、国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)等を通じ、投資家が求める情報開示に合致しています。

また、株主提案を提出先となった企業は、座礁資産リスク(環境や市場、規制の変化で企業が将来的に減損処理する資産を抱えること)や訴訟リスク、ブランド価値の毀損など将来の企業価値に関する重大なリスクを抱えています。また、こうした企業が誤った戦略を取り続けると気候変動対策の妨げともなりかねません。

企業が我々の株主提案を真摯に受け止め、投資家の方々の後押しを受けて気候変動対策を強化するとともに情報開示を進めることが、企業価値の向上に繋がり、ひいては気候危機を防ぐ一助となるとして、ご理解を得られることを期待しています。

 

■ 株主提案に関する詳細 

メガバンク3社(こちらから)

中部電力 (こちらから)

 

■ 株主提案に関する特設サイト

各社への提案書および投資家向け説明資料は特設サイトからもダウンロードいただけます。

Asia Shareholder Action: https://shareholderaction.asia/ja/

 

■ 株主提案の内容に関するお問合せ先

□ マーケット・フォース(Market Forces)https://www.marketforces.org.au
日本語窓口(松木):TEL:+81-80-4395-8529
担当者:Antony Balmain E-mail: contact[@]marketforces.org.au
Tel: +81-80 4395 8529

□ 気候ネットワーク  
https://www.kikonet.org

東京事務所:TEL:+81-3-3263-9210
担当者:鈴木康子 E-mail: suzuki[@]kikonet.org

□ レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)
japan.ran.org

担当者:川上豊幸 E-mail: toyo[@]ran.org

プレスリリース:東京海上・MS&AD・SOMPOを含む世界の保険会社による米国湾岸LNG事業への保険引受が判明(2024/2/22)

※更新「リスク・エスポージャー」和訳版を発行しました(2024年9月)。

「環境・持続社会」研究センター(JACSES)
Insure Our Future
レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)

2024年2月22日ー米国の環境NGOであるレインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)及び消費者団体であるPublic Citizensが発表した報告書「Risk Exposure: The Insurers Secretly Backing The Methane Gas Boom in the US Gulf South(※1)」によると、日本の大手損害保険会社である東京海上、MS&AD、SOMPOを含む世界の保険会社35社が、米国のメキシコ湾岸地域の7つの液化天然ガス(LNG)ターミナル事業に対して保険引受を行っている実態が明らかになった。1月26日、米国のバイデン大統領は、LNGの新規輸出許可の一時停止を発表したが、具体的な停止対象事業については触れておらず、今後も米国においてLNG輸出事業が拡大する可能性がある。このような状況の中、本報告書は、パリ協定の1.5度目標を達成するために保険会社の責任の重大さを改めて浮き彫りにしている。

報告書では、米国連邦エネルギー規制委員会(FERC)、州当局、地方政府等に対する50件以上の情報公開法(FOIA)請求を通じて入手することが出来た保険証明書をもとに、メキシコ湾岸地域におけるLNGターミナル事業7件に保険引受を行った保険会社を明らかにしている。米国・欧州・アジア地域の保険会社の少なくとも35社が、7件のLNGターミナル事業の保険引受者であることが特定された。日本の保険会社については、リオグランデLNGの保険をSOMPOが、ガルフLNGの保険をSOMPO及び東京海上が、キャメロンLNGの保険を東京海上及びMS&ADが引き受けている実態が明らかになった(詳細は下記表を参照)。キャメロンLNGには、三井物産、三菱商事、日本郵船が出資している。

現在、米国には既設のLNGターミナル案件が8件、建設中の案件が7件、計画中の案件が17件存在し、特に新規の案件はメキシコ湾岸のルイジアナ州及びテキサス州一帯に集中している。現在稼働中及び建設中の案件を合わせると、石炭火力発電所345基に相当する年間12億8,700万トンもの温室効果ガスを排出すると言われており、日本は主な輸出先の一つとなっている。

図:北米における既設及び建設中のLNG輸出ターミナル

報告書では、保険証明書を入手した7件のLNG事業の多くが、先住民族、有色人種、低所得者の居住域に立地しており、現地コミュニティは、先住民族の権利に関する国連宣言で求められている「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)」に基づいた開発の合意形成が欠如していたと指摘されており、メキシコ湾岸に蔓延る環境人種差別を温床化させていると指摘されている。また、ターミナル建設に伴い、有害な大気・水汚染が現地住民の健康被害を深刻化させていることや、LNGターミナル事業がハリケーンをはじめとする異常気象に脆弱な実態について言及されている。

東京海上、MS&AD、SOMPOの3社は、石炭事業及びオイルサンド採掘事業、北極圏における石油・ガス事業などの新規保険引受及び投融資停止を表明しているものの、一般的な石油・ガス事業については保険引受・投融資を停止する方針を設定していない。3社は1.5度目標との整合性を確保するために、これらの方針を早急に掲げるべきである。また、今回関与が判明した3件のLNGターミナル事業の保険契約更新を行わないよう強く要請する。

本件に関する問い合わせ先:
「環境・持続社会」研究センター(JACSES)田辺有輝/喜多毬香
tanabe@jacses.org / kita@jacses.org

注:
※1:英語版
https://www.ran.org/publications/risk-exposure-the-insurers-secretly-backing-the-methane-gas-boom-in-the-us-gulf-south/

【更新情報】

和訳版「リスク・エスポージャー:米国メキシコ湾岸LNG事業の保険引受会社、情報公開で判明」を発行しました(2024年9月)

記事:ホワイトハウス、LNG輸出の新規許可を一時凍結 ウォール街も後に続くべき(2024/2/13)

ジンジャー・キャサディ(レインフォレスト・アクション・ネットワーク)
フアン・マンシアス(米テキサス州カリゾ・コメクルド族)

(本記事は、米誌「Newsweek」に寄稿した記事の翻訳版です)

米国メキシコ湾岸の石油・ガス開発反対運動のリーダーたちは勝利を収めた。米政権が、液化天然ガス(LNG)として知られるメタンガスの輸出施設の新規認可を一時凍結するよう指示したのだ。メキシコ湾岸では、私たちの世代で最大の石油・ガス開発が計画されている。この一時凍結は、開発中止を求める地元住民やリーダーたちの請願に応えたもので、化石燃料拡大の時代の終焉を告げる画期的な出来事となり得る。開発中止の呼びかけはホワイトハウスで終わらず、漁民、公衆衛生の専門家、科学者、アメリカ先住民族、そして一般市民が、銀行保険会社にも、これらの開発事業を中止するようプレッシャーをかけている。

環境保護活動に反対する主張でよくあるものは、「利益追求」と「保全活動」は相反するという考えだ。つまり「利益追求」は本質的に経済にとって、ひいては人間にとって有益なものだが、「保全活動」は大気や土地、植物、水、野生生物を保護するが、人間の利益のためではないという論理だ。しかし、この主張は米国メキシコ湾岸の実情から遠くかけ離れている。ここで暮らす先住民族の文化には、「大地の健康」は「人々の健康」と同義で、切っても切り離せないという考え方がある。

彼らの考えが正しいことは明白だ。同地域では、土壌や大気の有害物質によって人々が命を落としており、一帯は「がん回廊(Cancer Alley)」という悪名高いあだ名で呼ばれているのだから。メタンガス輸出施設付近の地域住民が健康被害を被っていることや、化石燃料に起因する気候災害に世界中の人々が直面していることを考えれば、これらの事業に反対する道徳的根拠には、反論の余地がない。地域の生活に決定権を持つ人々に良心があるならば、利益、人々、環境の間の分断がこれ以上続くことを止めるだろう。これは多数を犠牲にして、少数と利益を共有する銀行や保険会社にも言えることだ。

メタンガスに反対する経済的根拠も高まっている。メタンガスの輸出は米国の一般家庭のエネルギー価格を引き上げ、メタンガス施設が建設される地域の先住民族や黒人、褐色人種のコミュニティの生活を破壊している。さらに、メタンガスの輸出は石炭よりも気候に悪影響を及ぼすという事実が、新たな調査によって浮き彫りになっている。メタンガスの供給が過剰になることは予測されており、その価格を破壊するだろう。全ての化石燃料の拡張事業は、メタンガス拡張事業に見られる負の傾向と同じ問題に直面している。

バイデン政権によるメタンガス輸出凍結により、提案段階にある12件の計画が停止される見込みだ。自然保護団体シエラクラブによれば、これは石炭発電所223基分の温室効果ガス(GHG)排出に相当する。米国にはすでに8つの既存のメタンガス輸出基地(ターミナル)があり、さらに7つの事業が建設中だ。建設中の事業には、テキサス州リオ・グランデ・バレーの未開発の海岸線での新規基地建設(訳註1)や、ルイジアナ州とテキサス州に所在する既存事業の拡張などが含まれる。投資家は、停止中の事業のリスクが大幅に高まったことを否定できないだろう。全てのメタンガス輸出拡大事業、特に民族の抹消(訳註2)などといった現在起きている重大な人権侵害を永続させるような事業は、中止を求めるコミュニティからのプレッシャーというリスクに直面している。

化石燃料セクターは、化石燃料を拡大する全ての事業を止めるよう求める業界アナリストやコミュニティのリーダーからの訴えを、無謀にも無視し続けている。金融機関や投資家は、そのようなセクターで、座礁資産市場の変動による投資の破壊、資金提供を通じて問題に加担したことによる法的リスクの増大といったリスクを負いながらギャンブルすることをやめなければならない。

銀行や保険会社は何十年もの間、化石燃料事業への資金提供による気候や地域社会への影響を無視してきた。メキシコ湾岸の反対運動のリーダーたちは、ウォール街に対して、ホワイトハウスと同様に行動することを求めている。しかし、金融機関は、黒人や褐色人種、先住民族のコミュニティに汚染被害をもたらすメタンガス事業への支援を取りやめていない。

LNG輸出認可を一時停止するというホワイトハウスの発表により、金融業者と投資家の選択肢は明確になった。化石燃料の拡大への支援を中止するなど、全ての人の生命を守るために必要な方針を策定するか、それとも、政府の規制にますます反するようになっているギャンブルを利益目的で続けるか、のどちらかなのだ。メキシコ湾岸と世界中の人々の命を救うために、今こそリーダーシップが必要だ。ウォール街はホワイトハウスの後に続き、大胆に行動しなければならない。

米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク事務局長
ジンジャー・キャサディ

テキサス州カリゾ・コメクルド族チェアマン
フアン・マンシアス

*本記事で述べられている見解は執筆者個人のものです。

 

訳註1)リオ・グランデLNG事業の概要や問題点については、日本のNGO「環境・持続社会」研究センター(JACSES)がまとめたファクトシート(2024年4月発行)を参照のこと。

https://jacses.org/wp_jp/wp-content/uploads/2019/10/f3f4587241d5a547e73247c7eea46d96.pdf

訳註2)テキサス州の先住民カリゾ・コメクルド族は、アメリカ先住民族であるにもかかわらず、連邦政府から公認の先住民族としての法的地位や土地権などが認められていない。彼らは長年、この「民族の抹消」という深刻な人権侵害とたたかい、また先祖代々に伝わる土地を環境破壊などから守る活動を行ってきた。現在、彼らの聖地にメタンガス輸出施設やパイプラインが建設されるのを阻止するために、世界的なキャンペーンを展開している。彼らの活動の結果、輸出施設の建設が中止・遅延されたり、投融資を検討していた銀行が事業から撤退するなどしている。

(和訳版発行日:2024年9月3日)

プレスリリース:新報告書『生物多様性崩壊をもたらす金融業務』発表〜メガバンクら銀行、森林リスク産品に3070億ドルの資金提供〜(2023/12/7)

森林破壊・生物多様性損失・気候カオス・権利侵害を加速

米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部サンフランシスコ、以下、RAN)を含む8団体で構成する「森林と金融」連合は、第28回国連気候変動会議(COP28)で「金融」がテーマである4日、新報告書「生物多様性崩壊をもたらす金融業務:熱帯林破壊を助長する銀行と投資家の追跡」を発表しました。本報告書は、大手金融機関が熱帯林地域における森林破壊、生物多様性の損失、気候変動、人権侵害をいかに助長しているかについて包括的に考察するもので、分析の結果、銀行がパリ協定締結以降の2016年から2023年9月、熱帯林破壊に関係している高リスク林業・農業企業に3070億ドル以上の資金を提供していることを明らかにしました。この結果は、世界の大手銀行と投資家の掲げる森林関連ESG方針が、森林と生物多様性の広範かつ継続的な損失を防止できていないことを示しています(注1)

 

表「森林リスク産品への融資・引受額 上位20銀行」
(2016-2023年9月、単位:百万米ドル)

*森林リスクセクター約300社(東南アジア、ラテンアメリカ、中央・西アフリカ)への融資・引受額、傾向。
日本のメガバンクはみずほ(8位)、MUFG(12位)、SMBC(17位)。

本報告書「生物多様性崩壊をもたらす金融業務:熱帯林破壊を助長する銀行と投資家の追跡」は、世界の熱帯林破壊の大部分を引き起こしている「森林リスク産品」セクターの6品目(牛肉、パーム油、紙パルプ、ゴム、大豆、木材)に携わる約300社の森林部門事業に対する商業資金の流れを概説・分析しています。報告書では、森林リスク産品セクターへの融資・引受と債券・株式保有において、どの銀行と投資家が最も大きな役割を果たしているかを明らかにしています。森林破壊を引き起こすリスクの高い銀行、つまり資金提供額上位30行のなかには、ブラジルやインドネシアなどの熱帯林諸国の大手銀行や、米国、欧州連合(EU)、日本、中国といった輸入および財政的に重要な管轄区域の大手銀行が含まれます。

報告書では同時に、影響の大きいセクターへの投資に適用される方針の内容についても評価しています。100を超える銀行と投資家の投融資方針を、環境・社会・ガバナンス(ESG)関連基準の38項目に基づき採点しています。残念ながら平均評価は100点満点中わずか17点と低く、30点以上の評価を受けた銀行と投資家は20社のみで、50点を超えた銀行はわずか2行でした。森林リスク産品セクターに提供される資金の量と、甚大な森林破壊と権利侵害の防止措置である投融資方針との間に大きな隔たりがあることが明白になりました。

報告書で明らかになったのは、森林リスク産品への資金提供者のトップはブラジル銀行とブラデスコ銀行です。両行は主にブラジルの牛肉セクターと大豆セクターに融資していますが、森林伐採と権利侵害を防止するための最低限の方針しかありません。米ウォール街の巨大金融機関であるJPモルガン・チェース、バンク・オブ・アメリカ、シティグループは紙パルプやパーム油セクターに多額の資金を提供していますが、各行の森林ESG方針は弱く、森林や生物多様性、人権を保護できていません。バンク・オブ・アメリカは100点満点中22点、シティグループは37点、JPモルガンはわずか15点と評価され、3社とも極めて低い評価となりました。

日本の金融機関は紙パルプとパーム油に多くの資金を提供しています。メガバンクではみずほフィナンシャルグループが約74億ドルと最も多く、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG、約58億ドル)、SMBCグループ(約46億ドル)と続き、3行ともトップ20銀行に入りました(表を参照)。方針評価については、日本の金融機関の平均得点は21点で、インドネシアやマレーシアの金融機関よりも低い評価となりました。日本の金融機関の方針は総じて環境・社会面よりもガバナンスに関して強い傾向にあります。みずほが38点で最も高く、SMBCが36点、野村グループが27点、MUFGが24点、三井住友トラスト・グループ(22点)、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は2点、公立学校教職員共済組合は0点でした(注2)。

また今回の調査結果は、主要な管轄区域において金融機関に強固な規制が適用されることが緊急に必要であることも浮き彫りにしています。報告書は、各国政府と金融機関が、パリ協定第2条1(c)と「昆明・モントリオール生物多様性枠組(GBF)」のターゲット14と15の下で、気候変動と生物多様性に関する公的目標を達成すべく資金の流れを調整する責任を負っていると強調しています。しかし調査データによると、パリ協定締結後の2016年から2023年9月までの間、年間の融資・引受総額と投資総額は多少変動しているものの、森林リスク産品の継続的な生産拡大を促進している資本には減少傾向が見られないことを示しています。

「森林と金融」コーディネーターのメレル・ヴァン・ダー・マークは、「多くの人は、環境犯罪に関与している企業に金融機関が融資することが、ほとんどではないにせよ、多くの地域で法的に問題がないことを知ればショックを受けるでしょう。今回の調査結果は、国連のPRI(責任投資原則)やPRB(責任銀行原則)のような持続可能性イニシアティブに加盟している金融機関や、ネットゼロ(注3)を誓約している金融機関が、これらの目標の達成を不可能にしてしまうような企業に融資を続けているという、明らかな偽善を示しています。金融機関に独自のESG基準を設定するよう任せるだけでは、資金の流れを持続可能なビジネス慣行へ転換させるには不十分です。最終的には各国政府が、社会と私たちみんなが依存している生態系を守るために必要な政策と罰則措置を講じる必要があります」と強調しました。

本報告書は資金の流れを記録し、森林セクター方針を分析することに加え、こうした資金がブラジルのアマゾンやインドネシアの森林とコミュニティに与えている負の影響を示す事例もいくつか紹介しています。今回の調査によって、森林破壊企業4社(JBS、カーギル、ロイヤル・ゴールデン・イーグル(RGE)、シナルマス・グループ)が、社会・環境面での負の影響に広く関係し、長期にわたり常習的に悪質行為を行ってきたにもかかわらず、何十億ドルもの資金を集め続けていることが明らかになっています。4社が関係する社会・環境被害は、何年にもわたって続いているものが多く、多くの記録が残っています。

報告書は結論として、金融規制当局と金融機関が社会と私たち人類が依存している生態系を守るために必要な公正な移行を促進するよう、国際的な公共政策の目標に沿って、資金の流れを調整する緊急措置を講じる必要があると述べています。そのために「森林と金融」連合は金融セクターに、以下の5つの基本原則を採用するよう求めています:1)生物多様性の損失の停止と回復、2)先住民族と地域コミュニティの権利尊重と優先、3)公正な移行の促進、4)生態系の完全性(インテグリティ)確保、5)セクターや課題、金融サービス全般にわたって、気候変動・生物多様性・権利尊重の様々な機関目標と整合させること。

「森林と金融」は、キャンペーン活動や草の根活動、調査活動を行う団体の連合体であり、レインフォレスト・アクション・ネットワーク(RAN)、TuK インドネシア、プロフンド(Profundo)、アマゾン・ウォッチ、レポーターブラジル、バンクトラック、サハバット・アラム・マレーシア(国際環境NGO FoE Malaysia)、FoE USによって構成されています。

 

注1)報告書全文「生物多様性崩壊をもたらす金融業務(Baking on Biodiversity Collapse)」(英語)https://forestsandfinance.org/banking-on-biodiversity-collapse/

要約版(日本語)

「森林と金融」金融調査方法論(日本語)

『森林と金融』は、東南アジア、ラテンアメリカ、中央・西アフリカにおける紙パルプやパーム油など森林リスク産品への資金流入を包括的に分析したオンラインデータベース。金融商品、銀行・投資機関、国・地域、企業グループ、年、部門別に検索が可能。

  • 対象事業地域:世界三大熱帯林地域である東南アジア、ラテンアメリカ(アマゾン)、中央・西アフリカ(コンゴ盆地)
  • 対象産品:牛肉、パーム油、紙パルプ、天然ゴム、大豆、木材(森林リスク産品)
  • 対象期間:融資・引受は2016年から2023年9月、債券・株式保有は2023年9月時点

注2)方針評価の方法論(日本語英語

熱帯林生物群系における森林リスク産品セクターに関係する大手金融機関100社以上を対象に、環境・社会・ガバナンス(ESG)関連基準38項目を自社の投融資方針に盛り込んでいるかについて評価した。この基準項目は、国際的な合意やベストプラクティス(最良の手法や事例)から導き出したもので、金融機関は取引先や投資先がこれらの基準を満たすよう確保することで、ESG問題への加担を回避することが可能になる。日本からはメガバンク3行、三井住友トラスト・グループ、野村グループ、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)、公立学校共済組合が含まれる。

評価基準38項目の概要: 

  • 環境分野(12項目)森林破壊禁止の誓約、天然林や自然生態系の転換禁止の誓約。泥炭地、湿地、高保護価値(HC)林、保全地域、高炭素貯留(HCS)地域に関する具体的な項目。管理、汚染、農薬、温室効果ガス排出に関する項目など。
  • 社会分野(11項目):土地権の尊重、「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC)に関する権利の尊重、先住民族や地域コミュニティの広範な経済的・文化的権利の尊重。人権デュー・ディリジェンス・プロセス、モニタリング・システム、苦情処理メカニズムの確立。強制労働、児童労働、生活賃金、労働基本権に関する項目など。
  • ガバナンス分野(15項目):融資先企業のガバナンスに関する項目(汚職、租税回避、土地権の合法性の証明、環境・社会影響評価、サプライチェーンの透明性とトレーサビリティ(追跡可能性)、事業管理地の地図など)。金融機関自身のガバナンスに関する項目(取締役会による監督と報酬体系、方針の実施、苦情処理メカニズム、投融資の透明性など)。

評価は森林リスク産品の6品目別、および投融資に関して行われた。これらの詳細な評価は、金融機関の投融資ポートフォリオにおける各産品の相対的な重要性に基づいて加重平均の上、総合評価としてまとめた。

注3)温室効果ガスの排出量を、吸収量や除去量と合わせて、全体で正味ゼロにすること。

 

団体紹介
レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
東京都渋谷区千駄ヶ谷1-13-11-2F
関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

※更新
『生物多様性崩壊をもたらす金融業務:熱帯林破壊を助長する銀行と投資家の追跡』日本語要約版を追加しました(2023年12月15日)

『「森林と金融」金融調査方法論』(日本語)および『「森林と金融」方針評価方法論』(日本語)を追加しました(2024年2月、3月)

声明:RSPOに要求事項の強化を要請〜基準弱体化で信頼性を損なうリスク〜(2023/11/21)

RSPO基準はEUの新規制「森林破壊禁止法」(EUDR)に適合せず

(インドネシア・ジャカルタ)米環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、20周年を記念してジャカルタで開催中の「持続可能なパーム油のための円卓会議」(RSPO)を受けて、以下の声明を発表しました。

RANはRSPOの開催に合わせて、新報告書「森林&人権方針ランキング2023」を発表しました(日本での発表は17日)。同報告書は、パーム油生産が熱帯林及び炭素を豊富に含む泥炭地、先住民族コミュニティや伝統的コミュニティの権利に与える悪影響に対して、影響力のあるRSPO会員企業が対処できていないことを示しています。同報告書は大手消費財企業(その供給業者も含め)の森林と人権関連の方針と取り組みを詳細に評価するものです。同時に消費者に向けて、RSPOの現在の基準やシステムは欧州連合(EU)の新規制「森林破壊防止法」(EUDR)の要件を満たすには不十分であると警鐘を鳴らしています。透明性が高く、追跡可能で責任あるパーム油のサプライチェーンの実現のためには、各種システムを強化しなければならないことも述べています。

RAN森林政策ディレクター、ジェマ・ティラック

「今、パーム油業界にとっては極めて重要な時です。パーム油業界は数十年にわたって森林破壊と人権侵害の汚名を返上しようと試みてきました。それにもかかわらず、インドネシアの「ラワ・シンキル野生生物保護区」では、炭素を豊富に含む泥炭湿地林で水路が造成されて水が抜かれ、森林破壊の増加が今も確認されています。同保護区はスマトラオランウータンの生息密度が世界で最も高く「世界のオランウータンの首都」と呼ばれています。​​RSPO会員企業によるモニタリングが行われているにもかかわらず、この保護区が破壊されているのです。

RANは、森林が破壊された土地で違法に生産されたパーム油を調達しているRSPO会員企業を摘発しました。森林を破壊して生産されたパーム油は、プロクター&ギャンブル(P&G)、モンデリーズ、コルゲート・パーモリーブ、ネスレといった大手消費財企業のグローバルサプライチェーンと製品に混入し続けています。

こういった森林破壊は、パーム油セクターで当たり前のようになっている、有効性が低いトレーサビリティ(追跡可能性)システムのために起きています。深刻な欠陥のある(非認証油も混合される)RSPOのマスバランス・サプライチェーン・システムへの依存は非常に大きな問題です。

RANは、RSPOが中核的な認証基準の改訂プロセスを進めるなかで、基準をさらに弱めるのではないかと懸念しています。RSPOは基準を改訂する代わりに、すでに明らかになっている重大な抜け穴を防ぐことに取り組むべきです。RSPOは保証システムと苦情処理システムの問題に対処しなければなりません。

RSPOは、意義のある認証システムであり続けるために、責任あるパーム油生産の世界的基準である「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」( NDPE)の実践に整合する基準を維持し、実施する必要があります。RSPO基準は、土地権の侵害を可能にするために弱めてはなりません。また、森林被覆率の高い国の原生林景観や管轄認証プログラム内での森林破壊を可能にしたり、インドネシア全土の企業管理地外で小規模森林破壊を起こしている土地投資家、地元有力者が生産する問題あるパーム油をRSPO認証市場に参入を可能にするために、基準を弱めてはなりません。

市民団体は、RSPOで救済されていない多くの問題事例に関心が集まるよう呼びかけています。インドネシアの中部カリマンタン州スルヤン県Bangkal村で最近発生したコミュニティメンバーの殺害事件を受けて、自分たちの土地と生計を守るために行動を起こしている人権擁護者への暴力や脅迫、犯罪者としての不当告発に関して、RSPOは「ゼロトレランス」(不容認)アプローチを採用しなければなりません。

RSPOは、人権を尊重しない会員企業や、既存または新規のアブラヤシ農園開発によって影響を受ける先住民族コミュニティから「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC)を得ていることを証明できない会員企業に認証を与えてはなりません。

土地収奪に関与している企業のグリーンウォッシュと、苦情や土地紛争解決についてのRSPOの失敗は20年続いてきました。RSPO認証システムにおける公正性の欠如は容認できるものではありません」

 

※NDPE基準は、2013年にパーム油革新グループ(POIG)が策定した憲章から発展したものです。多くのRSPO会員企業やコンシューマー・グッス・フ ォーラム(CGF)の自主的な方針で採用されたことを受け、2018年に行われた前回の見直しの際にRSPO基準に統合されました。

 

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
レインフォレスト・アクション・ネットワーク
コミュニケーション:関本 Email: yuki.sekimoto@ran.org

プレスリリース:新報告書「森林&人権方針ランキング2023」発表〜ユニリーバがトップ、P&G最下位、日清食品は改善するも取り組み遅れ〜 (2023/11/17)

大手消費財企業、森林破壊と人権侵害防止を公約するも阻止できず〜グローバル消費財企業10社の森林及び人権方針を評価〜

環境NGOレインフォレスト・アクション・ネットワーク(本部:米国サンフランシスコ、日本代表部:東京都渋谷区、以下RAN)は、本日17日、新報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林&人権方針ランキング2023」(注1)を発表しました。

                 

本報告書は、熱帯林地域で森林破壊と人権侵害のリスクが高い産品に関与している大手消費財企業10社を対象に(注2)、各社の方針と実施計画を森林と人権の二分野で評価・分析するものです。サプライチェーンでの森林破壊と人権侵害を阻止するための取り組みを詳細な基準で比較評価した結果、ユニリーバが「C」評価で最も高く、プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)が最下位でした。日本からは花王が「D」、日清食品ホールディングスは5段階で最低ランクの「不可」でした。報告書は、10社全社がこの重要な問題への取り組みについて「A」評価を得るには程遠く、欧州連合の森林破壊防止法(EUDR)のような新規制の要件を満たす目処も立っていないと結論づけました。これは銀行や投資家を重大なリスクにさらすことになります。

本ランキングは、大手グローバル消費財企業10社を対象に、サプライチェーン(供給網)における森林破壊と権利侵害を阻止するための取り組みについて比較評価するものです。各社の企業方針について森林と人権分野の12項目を24点満点で評価しています。合計得点に合わせてA(21〜24点)、B(17〜20点)、C(12〜16点)、D(6〜11点)、不可(0〜5点)で評価しました。本報告書は、パーム油、紙パルプ、大豆、牛肉、カカオ、木材製品など、森林を破壊するリスクのある産品(森林リスク産品)のセクターにおける傾向と動向を分析し、2020年から毎年発表しています。10社のランキングの詳細は以下の通りです。

*Y=ありor全て(2点)、P=一部(1点)、N=なし(0点)

【森林&人権方針ランキング2023】概要

■調査期間:2023年8月~11月

■調査対象者:大手消費財企業(10社):日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース

■調査方法:各社の環境及び人権に関する方針を調査・分析(ウェブサイトなどで公開されている最新版)、各社へのヒアリング

■主な森林・人権方針の評価項目(全12項目、各2点)

*2点:方針あり/ 全体に採用、1点:一部に採用、0点:方針・計画なし

  • 「森林減少禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」(NDPE)方針・適用範囲:パーム油や紙パルプなど森林リスク産品事業の生産・投融資に欠かせない国際基準(注3)。特に、個別産品だけではなく森林リスク産品全般への適用、供給業者の企業グループ全体への適用を重視。
  • 「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意(FPIC)原則」の実施:先住民族および地域コミュニティの権利尊重(注4)
  • 人権擁護者への暴力や脅迫への「ゼロトレランス」(不容認)方針の有無(注5)
  • サプライチェーンの透明性:EUDR要件(注6)である、原料生産地までのフルトレーサビリティ達成の取り組みも含む(2023年版から追加)
  • 森林フットプリントの開示(注7)、など

■全体の評価・傾向

  • 取り組みが最も遅れていると評価された「不可企業」は日清食品、フェレロ、モンデリーズ、P&Gでした。P&Gは森林リスク産品セクターの横断的方針を公表した際に森林保護の要件を弱体化し、実質的に後退しました。
  • 中位グループではネスレ、ペプシコ、花王、コルゲート・パーモリーブに若干の進歩が見られましたが、マースはほぼ停滞しました。
  • ネスレ、マース、フェレロは自社サプライチェーンが「100%森林破壊フリー」(森林破壊のない)であると宣言していますが、第三者による独立検証された証拠を開示していなく、注意が必要です。
  • 「サプライチェーンの透明性」項目で得点を獲得した企業はありませんでした。これは大手消費財企業とその供給業社がEUDRの要件である「森林破壊のない製品であること」を確認する目処が立っていないことを示唆しています。

■日本企業の評価

  • 総合点は日清食品が不可(5点)で、花王はD(8点)でした。
  • 両社とも「NDPE方針」を既に採用し、2点の評価を得ています。
  • 「NDPE適用の範囲」については、花王は森林リスク産品全般の供給業者とその企業グループ全体も適用対象としていることが確認できたため、評価を2点に上げました。一方、日清食品グループ調達方針の環境分野にNDPE支持を記載していますが、NDPE主要項目が明記されているのはパーム油事業のみで森林リスク産品全般ではありません。また、供給業者にNDPEの採用を義務化していなく、供給業者の企業グループ全体も適用範囲に含んでいないことから、昨年と同じく得点はありませんでした。
  • 「森林フットプリントの開示」については、日清食品花王も実施を表明したことで1点を得ていますが、まだ開示はされていません。
  • 「強固なモニタリングとデューデリジェンス」で、花王は森林破壊リスクの高い地域と供給業者事業のモニタリング方法を開示して評価を改善し、1点を獲得しました。
  • 「問題企業の責任追及」では、日清食品は6月に「苦情処理リスト」を公開し、違法パーム油生産農園との取引停止を公表して1点を得ました。花王は小規模農家生産者を対象とした苦情処理メカニズムはありますが、大規模農園・植林企業などを対象としたリストはなく得点はありませんでした。

レインフォレスト・アクション・ネットワーク日本代表の川上豊幸は「花王は方針強化を続け、10社中、中位グループの『D』評価を得ました。花王が直接調達していない産品であっても、供給業者とそのグループ企業全体が調達している全ての森林リスク産品を適用範囲として、NDPE方針の採用を義務付けるという点で評価を得ました。また、リスクの高い地域での森林破壊のモニタリング手法を開示したことで、花王の対応状況を確認することができるようになりました」と述べました。

続けて「一方、日清食品は3年連続で『不可』評価でした。苦情処理リストを公開したのは一歩前進です。しかし、NDPE方針が森林リスク産品全般に適用されず、パーム油に限定されたままです。またNDPE方針の採用を供給業者に義務化していません。そして持続可能なパーム油のみを2030年までに調達すると約束していますが、EUの新規制である森林破壊防止法(EUDR)は2024年末から施行され、域内で販売される製品には森林破壊のないことを確認した文書が要求されます。日清食品の目標は国際的に見劣りします」と指摘しました。

「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」キャンペーンは2020年4月の開始以来、評価分析を毎年実施し、今年で4回目の発表となります。地域のコミュニティやNGOとともにキャンペーンを展開し、消費者とともに消費財企業と銀行に働きかけてきました。現在、評価対象企業10社をはじめとする消費財企業や金融機関、パーム油大手の大半がNDPE方針を採用しています(注8)。しかし、消費財企業がNDPE方針を採用する多くの場合、原材料に使用する全ての森林リスク産品には適用されず、調達先など取引先の企業グループ全体にも適用されていません。つまり、パーム油など個別の産品でNDPE方針を策定しても、他の産品生産や企業グループ他社で森林破壊や搾取を起こしていれば、森林破壊や人権侵害への関与を禁止したことにはならず、大きな抜け穴が残ります。

多くの消費財企業は、原材料を供給するコングロマリット(複合企業)の一部門が方針に違反していることを知りながら、同じ親会社の別の部門と取引をしています。今回の方針評価を参考に、各消費財企業が森林破壊や人権侵害を助長しない努力をどの程度進めているか、消費者や金融機関、投資家は知ることができます。RANはさらなる森林破壊と人権侵害を防ぐために、大手複合企業のアグリビジネス企業と林業企業に対して大きな影響力をもつ消費財企業に、実質的な行動を早急に取るよう要求を続けます。

 

別紙「森林&人権方針ランキング2023」説明資料

RAN「キープ・フォレスト・スタンディング:森林&人権方針ランキング」は、世界の大手消費財企業が自社の事業活動から森林破壊や人権侵害を排除するために行っている取り組みについて評価するとともに、進捗状況の概要を報告しています。市民社会は大手多国籍消費財企業に働きかけ、自社のサプライチェーンを変革するという約束を取り付けてきました。しかし実際には、森林破壊と、最前線で土地を守る人々への暴力は世界的に増加傾向にあり、消費財企業は依然として森林破壊や権利侵害から利益を得ています。

こうした憂慮すべき傾向は、大手消費財企業が公に掲げる美辞麗句と、破壊的な影響との隔たりをいまだに埋められていないことを示しています。消費財企業の不十分な方策の結果、供給業者に実質的に従来通りのビジネスの継続を許し、それによって破壊的な影響が引き起こされています。従来通りのビジネス慣行は、世界で最後に残された原生林景観や、長きにわたって森林と生物多様性を守り、管理してきた先住民族の領域へと企業が進出する結果を生んでいます。

日本企業各社の点数と評価概要、改善点(24点満点、昨年版は20点満点)

  • 日清食品(不可:5点、昨年:20点満点で4点): P&G、モンデリーズ、フェレロと並び、今年も「不可」評価だった。9月にグループの調達方針を改定し、それまではグループ全体の調達方針の前文にNDPEを支持と記載していたが、「地球・環境」セクションにもNDPEを支持と明記した。また同「人権の尊重」セクションにはFPICの支持も明記した。しかしこの改定ではNDPEの「支持」にとどまり、全ての供給業者への要求事項としていなく、進歩の機会を逸した。一方、6月に「苦情処理リスト」を初めて開示し、RANの指摘に対処する形で、環境・社会面で問題視されてきたパーム油企業との取引停止などの対応状況を公表した。日本事業向けの農園までのパーム油供給業者リストの開示について改善したと言える。持続可能なパーム油100%調達を2030年までに達成するという目標は大幅な前倒しが必要。
  • 花王(D:8点、昨年:20点満点で6点):継続して調達方針を改定して「自然生態系の転換や劣化の禁止」を追加し、NDPE方針が全ての森林リスク産品に関して「企業グループ」全体に適用されることを明確にしている。「企業グループ(Corporate group)」の定義は、アカウンタビリティ・フレ ームワーク・イニシアチブ(AFi)が定めた、信頼できる「企業グループ」の定義に基づいている。重視される点は、森林リスク産品の全てのサプライチェーンにおいて、取引先の企業グループ全体に対してNDPE方針が適用され、実施されることを確保することである。花王はまた、供給業者の事業における森林破壊リスクを特定するために使用しているモニタリング手法の概要も開示した。花王は小規模農家の生産者を対象とした苦情処理メカニズム/リストを持っているが、大規模農園・植林企業、加工工場、直接供給業者を対象としたリストはない。

概要:方針と実施計画の分析

今回の調査結果では、消費財企業10社全てが、業界標準の枠組みであるNDPE方針に名目上は取り組んでいるものの、多くの場合、原材料に使用する全ての森林リスク産品には適用していないことも示しています(表)。また、全ての森林リスク産品サプライチェーンにおいて森林破壊、自然生態系の転換、人権侵害を撲滅する期限を設定している企業は一社もありませんでした。本報告書は、各社が自社サプライチェーンの浄化を何年も前から約束しているにもかかわらず、実際には供給業社に従来通りのやり方(ビジネス・アズ・ユージュアル)の継続を許し、その結果、世界で最後に残された原生林景観や先住民族の領域へ企業が進出していることを明らかにしています。

NDPE方針

本報告書では、消費財企業が原材料調達を通じて森林と人々に与えている影響全体に真に対処するためには以下の3点の両方が必要だと強調しています。

  • 産品横断的アプローチ:各種森林リスク産品全てに森林・人権方針を適用すること
  • 企業グループ横断的アプローチ:取引先企業が属する・関連する企業グループ全体が森林・人権方針を遵守することを取引の要件とすること
  • 方針の完全実施と遵守の独立検証を達成する野心的な期限付き目標を設定すること

多くの消費財企業は、コングロマリット(複合企業)の一部門が方針に違反していることを知りながらも、同じ親会社の別の部門と取引をしています。この「ずれ」は、大手グローバル消費財企業に製品原料を供給する複合企業が、シャドーカンパニー(陰の企業)や記録に残らない事業を多用して改革を行ったように見せかけながら、従来通りのビジネス手法で事業を行い、責任逃れに成功していることが主な原因です。

表「消費財企業各社の調達する森林リスク産品と、実際のNDPE方針適用範囲の比較」(報告書より)

EUDRについて

欧州連合(EU)で「森林破壊フリー製品に関する規則」(EUDR:通称「森林破壊防止法」)が可決され、その施行日は間近(2024年12月末)に迫っています。これは、森林リスク産品の世界における大きな進展であり、本ランキングで対象とした消費財企業全社に大きな影響を与えることになります。EUDRは森林破壊防止のためのデューディリジェンスを義務化するもので、EUに畜牛、カカオ、大豆、パーム油、コーヒー、ゴム、木材製品を輸入する全ての企業に対して、販売する製品に使用されている産品を厳密な生産地まで遡って追跡することを義務付けるものです。しかし今回の調査結果では、「サプライチェーンの透明性」項目(森林リスク産品のサプライチェー ンにおける直接・間接供給業者を公開し、調達する全原材料の完全なトレーサビリティ達成に向けた取り組みを進めること)で得点を獲得した企業はなく、大手グローバル消費財企業とその供給業社がこの新規制の要件を満たせないであろうことを示唆しています。

景観保護イニシアティブへの投資

希望を持てる動きとして、多くの企業が景観保全関連の取り組みへの投資を増やしていることが挙げられます。取り組みには数千の小規模農家が参加したり、森林の保護や回復に関わるものもあります。ユニリーバとペプシコはその分野の先行企業で、インドネシアのアチェ州と北スマトラ州の政府とともに「管轄アプローチ」を初期段階から開発しています。両州には、世界的に重要な熱帯低地林である「ルーセル・エコシステム」があります。しかし本報告書では、このような保護プログラムは有望ではあるものの、変化の規模は十分な速度で起きておらず、世界的に重要なインドネシアの熱帯林「ルーセル・エコシステム」で森林破壊が今も続いていると警告しています(注9)。

 

注1)新報告書「キープ・フォレスト・スタンディング:森林&人権方針ランキング2023」

方法論

「キープ・フォレスト・スタンディング:森林と森の民の人権を守ろう」は、RANが2020年4月から展開しているキャンペーンです。熱帯林破壊と人権侵害を助長している最も影響力のある上記の消費財企業・銀行に実際の行動を起こすよう要求しています:www.ran.org/kfs-scorecard-jp/

注2)消費財企業(10社):日清食品、花王、ネスレ、ペプシコ、プロクター&ギャンブル、ユニリーバ、コルゲート・パーモリーブ、フェレロ、モンデリーズ、マース

*10社全社が全容を報告している唯一の産品であるパーム油を例にとると、10社合計で約230万トンのパーム油と、約140万トンのパーム核油およびその派生物を購入している(2022年)。パーム油世界市場の約3%、パーム核油世界市場の約17%に相当する(報告書より)。

注3)NDPEはNo Deforestation、No Peat、No Exploitationの略。森林減少や劣化に対しての保護(炭素貯留力の高い<High Carbon Stock:HSC>森林の保護、保護価値の高い<HCV: High Conservation Value>地域の保護)、泥炭地の保護(深さを問わず)、人権尊重、火入れの禁止といった要素を含む方針を公表している企業は「あり」の評価を得る。

*参考:「『森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止』(NDPE)方針とは?」ブリーフィングペーパー

注4)「FPIC」(エフピック)とは Free, Prior and Informed Consentの略。先住民族と地域コミュニティが所有・利用してきた慣習地に影響を与える開発に対して、事前に十分な情報を得た上で、自由意志によって同意する、または拒否する権利のことをいう。

注5)「ゼロトレランス・イニシアティブ」ウェブサイト

注6)EUの「森林破壊フリー製品に関する規則」(EUDR:通称「森林破壊防止法」):EU域内で販売される製品は生産地までのトレーサビリティの確認と、森林破壊等との関連有無を確認する「デューデリジェンス」の公表が義務化される。森林破壊と人権侵害の有無のリスク評価や確認も含め、グローバル企業は同法への対応が迫られる。

注7)「森林フットプリント」とは、森林を犠牲にして生産される「森林リスク産品」の消費財企業の利用や、銀行による資金提供によって影響を与えた森林と泥炭地の総面積をいう(影響を与える可能性がある面積も含む)。消費財企業と銀行の森林フットプリントには、供給業者や投融資先企業が取引期間中に関与した森林および泥炭地の破壊地域、さらに供給業者や投融資先企業全ての森林リスク産品のグローバルサプライチェーンと原料調達地でリスクが残る地域も含まれる。森林および泥炭地が先住民族や地域コミュニティに管理されてきた土地にある場合は、その先住民族と地域コミュニティの権利への影響も含む。

注8)チェーン・リアクション・リサーチ、 “NDPE Policies Cover 83% of Palm Oil Refineries; Implementation at 78%.” (仮訳:NDPE方針、パーム油精製工場の83%をカバーするも実施率は78%)、2020年4月28日

注9)RANブログ「インドネシア違法パーム油『炭素爆弾スキャンダル』続報〜『ルーセル・エコシステム』の野生生物保護区で森林破壊の新証拠〜」、2023年11月7日(英語版9月18日発表)

レインフォレスト・アクション・ネットーク(RAN)は、米国のサンフランシスコに本部を持つ環境NGOです。1985年の設立以来、環境に配慮した消費行動を通じて、森林保護、先住民族や地域住民の権利擁護、環境保護活動をさまざまな角度から行っています。2005年10月より、日本代表部を設置しています。

本件に関するお問い合わせ先
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